我妻教育
私は目を閉じた。
そして、脳裏に張りつく弱気な考えを振り払うように、勢いよく頭をふった。
「まだ、だ。桧周。あきらめるな」
ほどけた包帯をきつく結び直し、桧周があさって散らかしたゴミをゴミ箱に戻し入れる。
「・・・ああ」
途方にくれ、ほうけていた桧周も私にあわせて手を動かしはじめた。
ゴミを戻していると、人の気配を感じて、顔を上げた。
見覚えのある幼子が、思い詰めたような面持ちで、おずおずとこちらに歩いてくる。
昼間、転がってきたボールを渡してやった、男の幼子だ。
母親も一緒だった。
母親も神妙な表情をしており、幼子をうながすように私に近づいてきた。
「何か用か?」
私が声をかけると、母親は遠慮がちに一礼をした。
幼子は、両手をかたくなに握りしめたまま、うつむいている。
年頃は、幼稚園に入る手前くらいだろうか。
「あの…、もしかしたら、なんだけど…、ほら、たっくん」
そう言って母親は、その「たっくん」という名の幼子の背中を押し、私の前に立たせた。
物言いたげに、しかし口をつぐんだまま幼子は、強く握った片方の手を私の前に差しだし、ゆっくりとその手を開いた。
胸の奥深くが、期待を帯びた緊張感で、ざわめく。
息をのんだまま、桧周と顔を見合わせた。
無言で、すぐに幼子の手の中に視線を戻す。
努力の成果か、はたまた運が良かったのか。
どちらでもよいが、とにもかくにも幼子の小さな手の中に、あった。
私たちが探し求めていたものが、あった。
高鳴る心臓。
間違いなく、それは未礼のネックレスだった。
波が起こるかのごとく体中に鳥肌が広がる。
「どこで見つけたのだ!!」
思わず大きな声が出た。
幼子が、ビクリと縮こまる。
「驚かして済まない。そのネックレスをどこで見つけたのか教えてくれないか?」
私は身をかがめ幼子に問うた。
そして、脳裏に張りつく弱気な考えを振り払うように、勢いよく頭をふった。
「まだ、だ。桧周。あきらめるな」
ほどけた包帯をきつく結び直し、桧周があさって散らかしたゴミをゴミ箱に戻し入れる。
「・・・ああ」
途方にくれ、ほうけていた桧周も私にあわせて手を動かしはじめた。
ゴミを戻していると、人の気配を感じて、顔を上げた。
見覚えのある幼子が、思い詰めたような面持ちで、おずおずとこちらに歩いてくる。
昼間、転がってきたボールを渡してやった、男の幼子だ。
母親も一緒だった。
母親も神妙な表情をしており、幼子をうながすように私に近づいてきた。
「何か用か?」
私が声をかけると、母親は遠慮がちに一礼をした。
幼子は、両手をかたくなに握りしめたまま、うつむいている。
年頃は、幼稚園に入る手前くらいだろうか。
「あの…、もしかしたら、なんだけど…、ほら、たっくん」
そう言って母親は、その「たっくん」という名の幼子の背中を押し、私の前に立たせた。
物言いたげに、しかし口をつぐんだまま幼子は、強く握った片方の手を私の前に差しだし、ゆっくりとその手を開いた。
胸の奥深くが、期待を帯びた緊張感で、ざわめく。
息をのんだまま、桧周と顔を見合わせた。
無言で、すぐに幼子の手の中に視線を戻す。
努力の成果か、はたまた運が良かったのか。
どちらでもよいが、とにもかくにも幼子の小さな手の中に、あった。
私たちが探し求めていたものが、あった。
高鳴る心臓。
間違いなく、それは未礼のネックレスだった。
波が起こるかのごとく体中に鳥肌が広がる。
「どこで見つけたのだ!!」
思わず大きな声が出た。
幼子が、ビクリと縮こまる。
「驚かして済まない。そのネックレスをどこで見つけたのか教えてくれないか?」
私は身をかがめ幼子に問うた。