我妻教育
「あ、啓志郎くんも?!あたしも!!本物のたこ焼き、つい食べたくなってさっき行っちゃった。なんかね~、2年1組のが、たこが大きくて美味しいらしいよ!!」


「・・・」

それが原因か。


「少し待っていてくれ」

軽く、琴湖とジャンに合図して、未礼を連れて少しその場を離れた。



模擬店のテントの影になるところで、不思議そうな顔をした未礼にポケットティッシュを手渡す。

「口元にソースがついているぞ」

「え!!ほんと!?」

慌てて未礼は、口の周りをなめてソースを取ろうとした。


「外で、はしたないまねをしてはいけない」


いつものことだが、呆れて私はティッシュを取り出し、未礼の口元を拭き取ってやった。


「そなたに関して言えば、食事の後は鏡を見るようにすべきだな」


「ありがとう!そうだね、ソースは気をつけないと・・・・・・って、青のり!!青のりは大丈夫かな!?」

「青のりは平気のようだ」

「あ~、よかった!!」


「・・・まったく。それでは私は、これから琴湖たちと他をまわってくる」

「うん!あとでね!行ってらっしゃい!」

「ああ。行ってくる」



そして私は、少し離れたところで待つ琴湖とジャンのもとへ向かった。


ジャンがニヤニヤと意味深な笑みを浮かべて、ひじで私の腕をつついた。

「もうすでに夫婦同士みたいだったじゃないか!!」


「茶化すでない。置いてゆくぞ」


「ですが、未礼さんとずいぶんと仲良く・・・というか、一緒にいて、しっくり見えるようにはなりましたわね」

歩き出した私の横に並んで琴湖が言った。


「そうか?あまり意識はしていないが」



しばらく共に生活をしていれば、それなりに、それらしくはなるものなのかもしれぬ。



「未礼さんが子どもっぽいからかもしれませんが、夫婦というより、父娘のような関係性に見えなくもありませんが・・・・・・失礼」


失礼、と言いつつ、琴湖は悪びれる様子もなくさらりと言った。


・・・反論出来まい・・・。


私は、わずかばかり振り返り、自らの模擬店に戻って行く未礼の姿を見、口をつぐんだまま鼻でため息をついた。
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