我妻教育
男にとっては、女の孫は特に可愛いものなのだろうが、同じ孫娘であるにもかかわらず、私の姉たちよりも、優留は祖父に気に入られているように感じる。

おそらく、孫の中で優留が一番祖父に似ているからだろう。
気性も、顔立ちも。



「そうそう。相手側と会う日取りが決まったんだよ」

優留が、祖父に言った。

「そうか。いつだ」

「来週の祝日。なんだっけ?勤労感謝だっけ?とにかくその日」

祖父と話しながら、優留は、ちらりと私の顔を見た。

緊張感が走った。

亀集院家との見合いの話で間違いない。

私は黙って聞いていた。


「そうか。相手側に失礼のないようにな」

「わかってるって!でも、さっすが。じいちゃんが話してくれたら、やっぱ話早いわ」


・・・何だと?!

「優留の婚約の話をすすめたのは、おじいさまだったのですか?」

驚き、たまらず会話に割って入った。祖父と優留が、私を見る。


「そうだよ。私が頼んだんだ」

私の質問に、祖父ではなく優留が答えた。
私は、祖父に向かって聞いた。

「なぜですか?!なぜ、今、急に優留に婚約などと・・・!!」


私の言葉をさえぎるように、優留は声を大きくした。

「おかしなことを言う。私は15だ。来年には結婚できる。小学生のお前に婚約の話が出ていて、私に無いわけがないだろう」


返す言葉に詰まった。


ようやく祖父が口を開いた。

「啓志郎。優留のことは優留のことだ。
お前が気にすることではない」


突き放すような冷たい言葉に、私の心も顔も凍りついた。
もはや、反論すらできなかった。


私は、すごすごと祖父の家をあとにするより他になかった。
祖母に礼を言い、玄関を出た。

まるで、逃げ帰るような惨めな気持ちだった。



小学生にもかかわらず、婚約の話を進めてくれたのは、私のことを認めてくれているからだと思っていた。

私は、祖父に、認められたのだと・・・。
私の婚約は、私の将来をも見越した話だったのだと・・・。


思い違いだったのかもしれない。

私の将来をいともたやすく揺るがす人物は、まさにこの祖父だったのだ。




< 139 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop