我妻教育
「すぐに出してくれ」

車に乗りこみ運転手に投げやりにつげ、すぐに下を向き目をとじた。


「ですが・・・。出してよいのですか?」

なぜか渋る運転手の視線の先に目をやると、車の外に優留がいた。
窓をノックしている。

優留は、強引に車に乗りこみ、私の隣に座ると、運転手に向かって「出していいよ」と言った。

優留は、コートと荷物を持っている。帰る気のようだ。

「ついでに送ってってよ」

「自分の車は?」

「先に帰らした」

しゃあしゃあと言うと、手荷物の大きな紙袋をあさり、中から桐の箱を取り出し、私に渡した。

「マスクメロン。持って帰りなよ。お土産。お嬢チャンに」

祖父へ送られた見舞いの品だ。祖父の好意に甘えて、大量にもらって帰ってきたようだ。

「いらぬ」

「何で?肉のがいいか?ローストビーフがあるぞ。あと、たっかそうなタオルとか。・・・何だ?つんけんして、可愛げのない奴だな、相変わらず」

優留は、無人の助手席に、マスクメロンとローストビーフの箱を置いた。


「何の用だ」

吐き捨てるように、たずねた。


「私の婚約の話、知ってたんだな。だから、じいちゃんに探りにきたんだろう?」

「・・・」

「気にくわないか?自分より、条件の良い相手と私が婚約するのが」

優留は、挑戦的な目をして言った。
私の神経を逆なでたいようだ。

「なんならお前も、じいさんに頼んで、垣津端より上の・・・そうだな、鶴乃宮コンツェルンの令嬢とでも婚約し直したらどうだ?確か小四の女の子がいた。ちょうど、いいじゃないか。
鶴乃宮んとこのジジイも、わざわざ孫娘を連れてせっせと、じいちゃんの見舞いに来てる」


「おじいさまが決めたことを、私がどうこう言う筋合いはない」

挑発にはのらず、平静を保って答えた。


「お前、本気で言ってんのか?」

優留は、顔をしかめた。挑発から一転、私を責めるような口調だ。

そして、鼻で笑った。


「お前。優秀でありさえすれば、自然に、“相応な持ち物”が手に入ると思ってるんじゃないだろうな?」


「何?!」

私は、優留の顔を見た。にらむように。


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