我妻教育

優留は、余裕の笑みを浮かべた。

「大事なのは、処世術だ。頭も、身体も、品行も、そこそこ優秀ならそれでいいんだよ。それよりももっと大事なのが処世術なんだよ」

「処世術だと･･･？」

「私は、啓志郎の婚約の話を聞いて、じいちゃんに頼みに行ったんだ。
啓志郎の相手よりも、もっともっと条件の良い相手をムコにくれって。
自分から。強引に」


優留の糸を引いていた黒幕は、優留自身だったのか･･･。
おじいさまは、優留の要求を受け入れて、亀集院家に縁談を持ちかけたのだ。

結果、私の立場が危うくなった。


「啓志郎、お前のように、与えられるのを待っているだけだったら、私は、あやうく後継者になれないところだったかもしれない」


「まだお前が後継者と決まったわけではない！」

優留の台詞に、私は、きっぱりと反論した。


危うくなったとはいえ、我が父は、私を後継者とすると言ったのだ。
現当主は、我が父だ。



先日、
父に送ったメールの返事があった。

優留が我が家に来た思惑については、何も知らなかったようだ。
さらに、優留の婚約の話をふったら、「初耳だ」と返信が来た。
私は、その返信を疑っていたが、父は嘘を言っていなかったのだ。

「未礼が婚約に同意した」とメールすると、「正月が楽しみだ♪」と返ってきた。

父は、まだ私を後継者にするつもりだ。
私は、そう信じている。


「後継者になるのは、優留、お前ではない。この私だ」

皮膚が、ピリピリするような緊迫した空気が車内に充満した。


優留は、唇の端を不敵に持ち上げた。

「私の見合い相手が誰だか教えておこうか」

「！！」

私の返事を待たずに、優留は、言った。


「亀集院家現当主の三男坊だ」


まるで、頭を殴られたような衝撃が私を襲った。
目の前が真っ暗になった。


「どうだ？驚いたか？」

勝ち誇ったように、優留が笑った。


おじいさま･･･、貴方は、なんという相手を選んだのだ。

亀集院家直系の三男坊。

私が、一番、そうでなければ良いのに、と願っていた相手だった。