我妻教育
ふと時計を見るといつの間にか深夜の2時を過ぎていた。
未礼は、コタツにうつぶせになって眠っていた。
無理はない。
昨日の晩からずっと、私に付き添い一睡もしていなかったのだ。
「悪かったな…」
小声で言い、未礼の肩に毛布をかけ、部屋の電気を暗くした。
頭が痛い。
こめかみを押さえる。
眠れそうで眠れない。
私は自分の部屋に戻り、机の引き出しの奥から、小さな箱を手にとった。
箱を手に自室を出る。
そして、兄の部屋に入った。
兄の部屋は、家政婦のチヨによって、いつもきれいに保たれていた。
いつ帰ってきても、すぐに眠れるようにと、季節に合わせて、布団もシーツも入れ替えて。
時計も電池を切らすことなく時を刻み続ける。
にもかかわらず、カレンダーだけは、6年前の10月のままだ。
6年前の10月。
その数ヶ月後、兄は行き先を告げずどこかに旅立って行った。
私は、小箱をあけて、中にしまっているものを見つめた。
誰かが部屋に近づいてくる気配を感じ、慌てて箱を閉じて、本棚に押しこんだ。
ノックもせずに入ってきたのは、父だ。
「啓志郎、まだ寝ていなかったのか…」
声が、かすれている。
よほど兄のことが心配なのだろう。
弱々しく、はにかんだ父の顔は相当疲れていた。
服装は、帰国時と同じワイシャツのままだ。
強くシワが入り、よけい疲れて見える。
おそらく、私も似たように疲れた顔をしているだろうが…。
父は、ベッドに腰かけ、深く息を吐き、頭を垂れた。
「金なら、な…」
父は、フッと鼻で笑い、私を見た。
私は、反応に困り、目を伏せてしまった。
父の気持ちは、わかる。
他国の武装勢力のリーダーの解放など、父が手を出せる問題ではないのだ。
父は、息子を助けることができない。
父を一人にしてやった方が良いのかもしれない。
兄の部屋を出ようとした私の背中に、父が声をかけた。
「啓、寝るのか?」
「眠れたら楽でしょうね」
「なら、少し話さないか?」
未礼は、コタツにうつぶせになって眠っていた。
無理はない。
昨日の晩からずっと、私に付き添い一睡もしていなかったのだ。
「悪かったな…」
小声で言い、未礼の肩に毛布をかけ、部屋の電気を暗くした。
頭が痛い。
こめかみを押さえる。
眠れそうで眠れない。
私は自分の部屋に戻り、机の引き出しの奥から、小さな箱を手にとった。
箱を手に自室を出る。
そして、兄の部屋に入った。
兄の部屋は、家政婦のチヨによって、いつもきれいに保たれていた。
いつ帰ってきても、すぐに眠れるようにと、季節に合わせて、布団もシーツも入れ替えて。
時計も電池を切らすことなく時を刻み続ける。
にもかかわらず、カレンダーだけは、6年前の10月のままだ。
6年前の10月。
その数ヶ月後、兄は行き先を告げずどこかに旅立って行った。
私は、小箱をあけて、中にしまっているものを見つめた。
誰かが部屋に近づいてくる気配を感じ、慌てて箱を閉じて、本棚に押しこんだ。
ノックもせずに入ってきたのは、父だ。
「啓志郎、まだ寝ていなかったのか…」
声が、かすれている。
よほど兄のことが心配なのだろう。
弱々しく、はにかんだ父の顔は相当疲れていた。
服装は、帰国時と同じワイシャツのままだ。
強くシワが入り、よけい疲れて見える。
おそらく、私も似たように疲れた顔をしているだろうが…。
父は、ベッドに腰かけ、深く息を吐き、頭を垂れた。
「金なら、な…」
父は、フッと鼻で笑い、私を見た。
私は、反応に困り、目を伏せてしまった。
父の気持ちは、わかる。
他国の武装勢力のリーダーの解放など、父が手を出せる問題ではないのだ。
父は、息子を助けることができない。
父を一人にしてやった方が良いのかもしれない。
兄の部屋を出ようとした私の背中に、父が声をかけた。
「啓、寝るのか?」
「眠れたら楽でしょうね」
「なら、少し話さないか?」