我妻教育
できるだけ目立たないように、人目を避けながら裏口を通り、松葉学院大学のサークル棟に入った。


静かで暗い廊下の奥まったところにある一室が、グリーン☆マイムの本部だ。


入口には、支援を呼びかけるポスターが貼られていたが、思ったよりひっそりとしていた。


「管理人さんには連絡しておいたから。啓志郎くんに会いたいって言ってたよ」

未礼はドアをノックした。


“管理人”とは、グリーン☆マイムの共同設立者である兄の友人のことらしい。

どうして、兄の危機に、グリーン☆マイムの責任者であるにもかかわらず、現地に赴いていないのか、理由はすぐに分かった。


「どうぞ」

ドアを開けると、車椅子の青年がむかえてくれた。

はかなげで静謐な印象の青年だった。


「こんにちは。啓志郎くん。ひさしぶりだね」

青年は、柔らかな笑顔を私にむけた。
未礼にも会釈した。
室内には彼しかいない。彼が管理人のようだ。


私は、記憶をたぐる。

兄に、車椅子の友人などいただろうか?
首をひねった。


「何年ぶりだろう。君の家には何度か遊びに行かせてもらったんだよ。
でも君は小さかったから、覚えていないだろうけどね」


幼かった私は、兄の交友関係には疎い。

友人の多い兄は、何度か友人たちを我が家に連れてきたことはあったが…。


管理人にうながされて、テーブルに座った。

管理人の名前は、文城 綾人(モンシロ アヤト)と言った。


グリーン☆マイム本部は、本棚に囲まれ、机とパソコンと、中央に置かれたテーブルでいっぱいになる、小さなワンルームだ。
車椅子が通りやすいように、整理整頓されいる。



「本当は、一番に現地へ行きたいんだけど、僕は見ての通り自由に動き回ることができないんだ。
でも、おじさん…啓志郎くんのお父さんが、自分が現地に行くから、僕はここで待っているようにって・・・」


管理人は、言葉をつまらせ、目をふせた。

女性のように繊細で、色素の薄い顔立ちだ。
世間で言う、美少年の類であろう。


『サラサラのキレイな子だわ。モデル事務所でも紹介しょうかしら』
と、母が言っていたのを思い出した。


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