我妻教育
そういえば、一人いた。

やんちゃな兄の友だちにしては、静かで大人しそうな友人が。


母曰く、「図書館で一人静かに読書をしている姿がしっくりくるような子ね」というくらい、兄の交友関係の中では異色の存在だった人物が。

兄と上手く折り合って付き合っているのか疑問に思ったことがあった。
だが、彼は、車椅子ではなかったはずだが・・・。


じょじょに、記憶の奥底にある、兄との記憶がよみがえってきた。

確か・・・、兄にはもっと仲の良い、
そう、いつも一緒に悪戯をしていた、悪友がいたはずだ。


だが、幼稚園ぐらいの頃の記憶を鮮明に思い出すのは無理だった。
もやがかかったように、あの頃の兄の顔すらぼんやりとしている。




管理人は、兄の話を聞かせてくれた。


5年前、家を出てから、兄がまずどこに行き、どのように生活してきたのか。

旅先から、親友である管理人にあてて送った大量の写真を見せてもらいながら。




「空と大地の境界線が見たい」


そう言って、5年前、突然、無計画に、海外に飛びたったのだという。


世界地図を壁にはり、ダーツを投げて、行く国を決め、
泊まるところも何一つ決めずに、リュック一つで飛行機に乗った。


偶然、機内で意気投合したインド人家族宅に誘われ、インドでホームステイをしたのが海外生活の始まりだった。


その後も、直感的に、世界各国を浮浪した。

ホームステイできるのは稀で、ほとんどが路上や格安の宿で生活しながら、ながれながれて数ヶ国。


道中、途上国支援をしているボランティア団体と知り合い、参加することになる。


渡航直後から、写真を撮っては、この管理人に送りつづけていたが、
父に始めて連絡をしたのは、自分でNGOを立ち上げてからだった。



写真は、兄が心を動かされた、ありとあらゆるものだった。

秘境といわれるような、むき出しの大地の写真や、
その国特有の風景や植物、食べ物、
旅先で世話になった人、
路上生活の子どもたち、
自然、人工物、人、動物、・・・


何冊もの分厚いアルバムが、本棚を埋めている。


< 155 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop