我妻教育

私が、身を置くホテルの一室に、ジャンが姿を見せた。
琴湖も一緒だ。


「さすがは世界の梅乃木ホテルだな。
見事なスウィートルームだ」


「ノンノン！！“The Plum Tree Hotel”」


「訳せば梅の木でしょ。民宿梅の木」


「みっ…！？民宿って！！ヒドいじゃないか琴湖ったらァ！
ロココ調のロマンチックルームに、１０００万ドルの夜景を一望できるこのラグジュアリーでハイセンスな、このThe Plum Tree Hotelを！！」　

ジャンは、窓際で両手を広げた。
夕暮れを背景に。


ジャンの家が営むこのThe Plum Tree Hotel（通称 プラムホテル）は、高級ホテルランキングで常に上位に名を連ねるほどの人気ホテルで、世界中にチェーンがある。



「学校にも行かず、連絡もろくにせず、心配かけたな、２人とも」

私は、琴湖とジャンをソファーに、うながした。


「私たちのことはお気になさらずに。
事情は未礼さんに聞いておりましたから。」


琴湖は、ソファーに座り、鞄からプリントやノートを取り出し、私に手渡した。


私が学校を休んでいる間のノートやプリントを届けにきてくれたのだ。

「ありがとう」

受けとり、プリント類をチェックした。


「…それより、啓さまは、大丈夫なんですの？
顔色がお悪うございます。
すっかり、おやつれになって…」


私の顔をのぞき、琴湖は不安げに眉間にしわをよせた。


「…眠れてるのかい？」

ジャンも心配そうに私の肩に手を置く。


「…ああ、大丈夫だ」

私は首をすくめて小さく笑ってみせた。


…大丈夫だ。

そう思っていなければ、とてもやりきれぬ。



私たちの間に、ひっそりとした沈黙が流れる。


空気を変えたのは、ジャンの気づかいだった。

インターホンを合図にジャンが立ち上がった。

「疲れているときには、スイーツが一番さ！
うちのホテル自慢のスイーツを全種類用意したよ！
ティータイムだ」


給仕がワゴンを押して室内に入ってきた。


宝石のような洋菓子がワゴンいっぱいに載せられている。