我妻教育
認めなければ、ゆるされない気がしていた。
ゆるされる?誰に?
私は誰に、ゆるしをこおうとしているのか。
ふっと、乾いた笑いをしてから、目をつぶり、私は意識を深く深く深層へ沈めていった。
兄に対するもう一つの真の思い。
小さくとも確実に存在する、こり固まったシコリのような感情が、いつも奥の深層のどこかに確かに存在していて、
兄が誘拐されてから、そのシコリはトゲをもち、私の内側を攻撃していた。
黙って家を出て行った兄。
私の誕生日を忘れていた兄。
すねたような反抗心から、帰ってきた兄を、私は避けた。
だが、私が知り得なかった事実がちゃんとあって、
今ならば、家を出て行った兄の気持ちも理解できるし、しっかりと私の誕生日を祝ってくれていた。
「兄への態度を悔いる反面、果たしてすべてを知っていたとしても、私は兄の帰国を心から歓迎できはしなかっただろう」
私が兄に代わって次の後継者になる。
兄がいなくなってしばらくして、まことしやかに、ささやかれはじめた噂話が、
幼い私の自我を目覚めさせた。
だが、芽生えた私の自我は、清々しいものではなかった。
芽生えたのは、兄への恐怖だった。
兄が、帰ってくることの、恐怖。
とにもかくにも、私は精進した。
両親の期待に応えるべく。
「皮肉にも、兄がいなくなったことで、はじめて私は存在意義を得たのだ」
後継者としての資質を手に入れていくにつれ、高まる周囲の期待。
自らに、役割が与えられることで、はじめて自分は存在できる。
「もう、私は戻りたくないのだ」
兄の後ろにいた、名も無き幼き頃の私には。
「後継者にならなければ、私は、次男の私は、何のためにこの世に存在しているのだ?」
もしも、兄が帰ってきたら、私はどうなってしまうのだろう。
恐怖が、私につきまとう。
兄が、いる限り。
「…怖かったのだ。
兄には敵わないことを、痛感することが。
自分の存在の不要を、思い知るのが。
これまでの、すべての努力が、無と消えるのが」
何より考えていたことは、身の保身だった。
ゆるされる?誰に?
私は誰に、ゆるしをこおうとしているのか。
ふっと、乾いた笑いをしてから、目をつぶり、私は意識を深く深く深層へ沈めていった。
兄に対するもう一つの真の思い。
小さくとも確実に存在する、こり固まったシコリのような感情が、いつも奥の深層のどこかに確かに存在していて、
兄が誘拐されてから、そのシコリはトゲをもち、私の内側を攻撃していた。
黙って家を出て行った兄。
私の誕生日を忘れていた兄。
すねたような反抗心から、帰ってきた兄を、私は避けた。
だが、私が知り得なかった事実がちゃんとあって、
今ならば、家を出て行った兄の気持ちも理解できるし、しっかりと私の誕生日を祝ってくれていた。
「兄への態度を悔いる反面、果たしてすべてを知っていたとしても、私は兄の帰国を心から歓迎できはしなかっただろう」
私が兄に代わって次の後継者になる。
兄がいなくなってしばらくして、まことしやかに、ささやかれはじめた噂話が、
幼い私の自我を目覚めさせた。
だが、芽生えた私の自我は、清々しいものではなかった。
芽生えたのは、兄への恐怖だった。
兄が、帰ってくることの、恐怖。
とにもかくにも、私は精進した。
両親の期待に応えるべく。
「皮肉にも、兄がいなくなったことで、はじめて私は存在意義を得たのだ」
後継者としての資質を手に入れていくにつれ、高まる周囲の期待。
自らに、役割が与えられることで、はじめて自分は存在できる。
「もう、私は戻りたくないのだ」
兄の後ろにいた、名も無き幼き頃の私には。
「後継者にならなければ、私は、次男の私は、何のためにこの世に存在しているのだ?」
もしも、兄が帰ってきたら、私はどうなってしまうのだろう。
恐怖が、私につきまとう。
兄が、いる限り。
「…怖かったのだ。
兄には敵わないことを、痛感することが。
自分の存在の不要を、思い知るのが。
これまでの、すべての努力が、無と消えるのが」
何より考えていたことは、身の保身だった。