我妻教育
「兄が帰ってきたら、後継者の地位は、兄のものになってしまう…」
私は頭を抱えてうなだれた。
「兄など、帰ってこなければいいのに、と思っていたのだ…」
ふりしぼるように吐露した。
今思うとぞっとする。
だが、事実、心の奥底でずっとそう思っていた。
兄が誘拐されるまで。
兄などいなくなればよい、と。
なんと醜い。
私は、なんと愚かで浅ましい生き物なのだろう。
「だが、こんなことを望んでいたわけではなかったのだ…!!!
兄の代わりに、私がいなくなればよかった…!!!」
「夫元気で留守がいい。ってやつでしょ」
突然の声に、はっとして顔を上げると、いつのまにか起きていた未礼と目が合った。
「そんなに自分を責めないで」
かすれた鼻声の未礼は、微笑みゆっくり起き上がった。
いつから聞いていたのか。
うろたえかけたが、気づかれぬよう、私は視線を背け、
「私が…、兄がいなくなればいいと思ったりしたから、こんなことになったのだ…」
ぼそぼそとつぶやいた私の讒言を最後まで聞くことなく、未礼は、すぐさま否定した。
「それは違うよ。
啓志郎くんが思ってたのは、“夫元気で留守がいい”とかよくいうでしょ、その程度の気持ちだよ。
そのくらい、悪いことじゃないよ。
啓志郎くんは、何も悪くないし、存在する意味がないなんて思ったりもしないで」
慰めるように諭されると、馬鹿にされているようで、下を向いたまま、私は反論した。
「…意味がないではないか!!後継者にならなければ、私など何の価値もない…!!」
「価値がないだなんて…。そんなことないよ。
お兄さんはお兄さん、啓志郎くんは啓志郎くんにしかない良いところがあるよ」
「本気でそう思っているのか?!」
私は、なおも食い下がった。
「未礼とて、今、私とともにいるのは、私が松園寺家の後継者になるからこそであろう?」
こんなことを言ったら、未礼を困らせるだけ。
自覚はあったがとめられなかった。
私は頭を抱えてうなだれた。
「兄など、帰ってこなければいいのに、と思っていたのだ…」
ふりしぼるように吐露した。
今思うとぞっとする。
だが、事実、心の奥底でずっとそう思っていた。
兄が誘拐されるまで。
兄などいなくなればよい、と。
なんと醜い。
私は、なんと愚かで浅ましい生き物なのだろう。
「だが、こんなことを望んでいたわけではなかったのだ…!!!
兄の代わりに、私がいなくなればよかった…!!!」
「夫元気で留守がいい。ってやつでしょ」
突然の声に、はっとして顔を上げると、いつのまにか起きていた未礼と目が合った。
「そんなに自分を責めないで」
かすれた鼻声の未礼は、微笑みゆっくり起き上がった。
いつから聞いていたのか。
うろたえかけたが、気づかれぬよう、私は視線を背け、
「私が…、兄がいなくなればいいと思ったりしたから、こんなことになったのだ…」
ぼそぼそとつぶやいた私の讒言を最後まで聞くことなく、未礼は、すぐさま否定した。
「それは違うよ。
啓志郎くんが思ってたのは、“夫元気で留守がいい”とかよくいうでしょ、その程度の気持ちだよ。
そのくらい、悪いことじゃないよ。
啓志郎くんは、何も悪くないし、存在する意味がないなんて思ったりもしないで」
慰めるように諭されると、馬鹿にされているようで、下を向いたまま、私は反論した。
「…意味がないではないか!!後継者にならなければ、私など何の価値もない…!!」
「価値がないだなんて…。そんなことないよ。
お兄さんはお兄さん、啓志郎くんは啓志郎くんにしかない良いところがあるよ」
「本気でそう思っているのか?!」
私は、なおも食い下がった。
「未礼とて、今、私とともにいるのは、私が松園寺家の後継者になるからこそであろう?」
こんなことを言ったら、未礼を困らせるだけ。
自覚はあったがとめられなかった。