我妻教育
空港の待合室の中で、母は、私に相談があると言った。

もちろん、私の意思を尊重するとの前置きはあったが。

母は、私に………

『啓志郎、−−−−−−……』




「啓さま?ぼんやりして、どうかされました?授業始まりますわよ?」

気づいたら、琴湖が私の顔を不思議そうな目をして覗き込んでいた。


「あ、いや、何でもない。理科室に移動だったな」

私は意識を教室に戻し、教科書を机の上に出した。





放課後、私と琴湖は、グリーン☆マイムの本部へ行くために、大学へ向かった。
(ジャンはフィギュアスケートの練習があるため、先に帰った。)


今回の一件のあと、まだちゃんと管理人に挨拶ができていなかったのだ。



グリーン☆マイム本部の前に着き、扉をノックしようとしたところで、突然扉がひらき、中から出てきた一人の女性と鉢合わせた。


女性は本部から退出するところだったようで、室内にいる管理人に一礼をし、私たちにも会釈して出て行った。



「いらっしゃい、啓志郎くん」


車椅子の管理人が笑顔で迎え入れてくれた。
痩せたな、と思った。
無理はないが。


室内に入ると、見知った顔がテーブルに座り、パソコンをのぞいていた。


未礼の友人の桧周だ。


「おう」

桧周は、私と琴湖を見ると手を上げて挨拶した。


「こんなところでどうしたのだ?」


私の問いに、かわりに管理人が答えた。

「桧周くんも、うちの活動に興味があるみたいなんだ」

管理人は静謐な笑みを浮かべた。



「…前さ、お前ん家で、お前の兄貴と会っただろ?」

パソコン画面を見ながら桧周は、私に話しかけた。


この前、兄が久しぶりに我が家に戻ってきたとき、行方不明だった未礼を一緒に探していた桧周は、我が家で兄と会っている。



「そん時、お前はすぐに部屋に戻っちまったけど、あの後、海外ボランティアの話をさ、お前の兄貴にいろいろ聞かせてもらったんだよ」

照れ隠しか、少しぶっきらぼうに桧周は頭をかいた。
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