我妻教育
「俺さ、高校出たら親父の会社に入る予定だったんだけど、その前に、お前の兄貴の活動に参加させてもらおうと思って。
社会勉強っていうの?今回こんなことがあったから、親父には反対されたんだけどさ、やっぱ行きたいっていうか…」

「そうだったのか」


「なんていうか、お前の兄貴、タフでカッケーな」


少し話をしただけで、桧周をも惹きこんでいるとは、さすがは我が兄だ。

私は、うなずき苦笑いした。

「馬鹿、とも言うがな」

だがそこには、以前のような苦々しい感情はない。



「井戸を掘るのは、向いてるんじゃなくて?」

琴湖が桧周の体格を見つつ、からかうように言った。


「そうだよね。頼りにしてるよ」

管理人も同意する。


「まぁな。力だけはな」

桧周は、二の腕に力こぶを作った。


グリーン☆マイム本部の室内も、ようやく平穏な空気が戻ったようで、私も安心した。

若干痩せた管理人の心労も癒され、じきに体重も元に戻るだろう。




「あれは…?」


管理人の上にミサンガが置かれているのが目に入った。

その色や形に見覚えがあった。


管理人は、私の視線に気づき、

「これ。さっき帰っていった女の人が作ってくれたんだよ」

ミサンガを私に見せてくれた。


「兄がつけていたのと同じデザインのようだが…」


「そう。今回の誘拐で、どうやらなくしちゃったみたいで、孝市郎のやつ相当しょげてたからね。また同じのを作ってもらったんだ」


兄の手首につけられていた、ミサンガを思い返した。

切れたら願いが叶うという代物のはずが、兄はなぜか、切れども何度も結びなおして使っているようだった。


「先ほどの女性は…」


「頼地の彼女だった女性だよ」


頼地。
兄と管理人とともに山で遭難し、命を落とした人物だ。


「頼地がラグビーの試合で勝てるようにって、彼女が頼地に作ってプレゼントしたんだ。
頼地の奴、すごく大事にしてて。
頼地の形見として孝市郎が頼地の親族から譲り受けたものなんだ」


「そうだったのか…。だから兄上は、何度も結びなおし、大事に使っていたのだな…」

私は、ミサンガを見つめた。
< 191 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop