我妻教育
改めて、兄たちの絆を強く感じた。


兄が管理人のために送り続けていた写真を、琴湖とともに眺めながら、現地で活動をする兄へ思いをはせた。


私も、もっと世界を見てみたい。




「ところでさ、啓志郎、お前いいのか、長々こんなところにいて」

突然、桧周が思い出したかのように、私に聞いてきた。


「何がだ?」



「今日、未礼の誕生日だろ?」





私の顔色を見て、その場にいた皆がすぐに察しただろう。


琴湖の軽蔑の眼差しが突きささる。

「女性の…しかも婚約者の誕生日をお忘れになるなんて…」



見合いのときの、釣書を思い出そうと頭を働かせた。


未礼の誕生日は確か……。

そうだ、確かに11月30日。
今日だった。



「毎年、誕生日はオレん家に集まってメシ食ったりすんだけどよ。
さすがに今年は、お前ん家に世話んなってっからさ。
誕生日当日にダチの家で祝ったりすんのは、やっぱ違うだろってことで、未礼もう帰ったぜ」


「私は、これで失礼する」

私は、席を立った。

平静を装っていたが、内心は大いに焦っていた。


「ま、お前も色々と大変だったから、忘れててもしょーがねーから、気にすんな」


桧周のフォローも耳には届かない。


なんたる失態。


誕生日のことなど、すっかり失念しており、何にも準備をしていなかったのだ。


言い訳になるが、未礼自身も誕生日に関しては何も言っていなかった。



「誕生日に必要なのは、…ケーキとプレゼントだな」

急いで車をよび、駆け足で校門へむかった。


「バースデーケーキでしたら、今からでも十分間に合いますわ。
どこかのホテルにでも…」

琴湖が、車に乗り込む私を呼びとめて言った。


「…そうだな。女性へのプレゼントは、どういうものがよいのだろうか」


「未礼さんが、喜ぶものは私には想像つきませんわ」


「…確かにその通りだ」


とにかく車を出し、考える。


頭をフル回転して考えた。



未礼をがっかりさせるわけにはいかない。


…だが……




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