我妻教育
帰宅し、居間に入ると、未礼の姿がなかった。


居間のテーブルの上にノートやら携帯電話が乗せられていたため、帰宅はしているようだが、隣の未礼の部屋にもいないようだ。


廊下に出て、我が家の“本当の居間”へむかった。

途中、出会った使用人に、未礼が台所にいると聞き、台所へ行く。


毎日というわけではないが、たまに未礼が食事を作ってくれることがある。


台所に入ると、洋風のいい香りがした。


「…シチューか」


鍋を煮込んでいた未礼が、私に気づき振り返った。

「おかえり!啓志郎くん!!」


私が鍋をのぞくと、

「今夜はねぇ、ビーフシチューだよ♪」
と、機嫌よく、おたまでシチューをすくった。


未礼の笑顔に、私は、いたたまれない気持ちになり、わびた。

「すまない、今日誕生日だったのだな。
自らの誕生日にもかかわらず料理をさせてしまうとは…」


「ぜーんぜん。
誕生日はねぇ、ビーフシチューなんだよ☆うちではそうなの」


未礼はまるで気にもしてないように、シチューの味見をすると、「んーー!!おいしい!!!お肉トロトロ☆」と人差し指と親指で丸をつくって、私にオッケーサインを出した。




「美味い」


こじんまりとした和室。
こたつ。
テーブルの上には、あたたかなシチュー。

平穏だ。
何よりだ。と、つくづく思う。


「いい嫁になるのではないか」


「でしょ、でしょ☆啓志郎くんは幸せだね☆…って自分で言うなって?エヘヘ。
でも、作りがいがあるな」

未礼は、私の空いた皿を満足げに眺めた。


誕生日に、私と過ごすより友人たちに祝ってもらったほうが、未礼もうれしかったのではないか、と案じたりもしたが、逆に友人を優先されたなら私は不愉快な気持ちになったかもしれない…。



「こんなものしか用意できなくて申し訳ないが…」


シチューをいただいたあと、私はテーブルの上にケーキの箱をのせた。


「ケーキ!!あけていい??」


未礼は、まるで子どものように、ケーキの箱に飛びついた。
そしてケーキを倒さぬよう、慎重に箱から取り出し、

「イチゴだー!!」と歓声をあげた。
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