我妻教育
オーソドックスなイチゴの生クリームのホールケーキに、『未礼ちゃん お誕生日おめでとう』と書かれたチョコレートのプレートがのっている。


「18歳になったのだな」


私は、ケーキにろうそくを立て火をつけた。
未礼が部屋の電気を暗くする。


薄暗い室内の真ん中に、やわらかなオレンジ色に照らされたケーキが浮かびあがる。


「あんまり誕生日っていう実感ないんだけどねぇ」


未礼がケーキの前にすわり、私の顔をじっと見た。

そして出し抜けに

「啓志郎くん、歌って!!」と言った。

「は?」


「誕生日の歌!
ハッピバースデートゥーユー♪ってやつ!!」


「私がか?」
思わず聞き返す。


「じゃあ、誰が歌うの?!あたしが歌うの?」
と面白そうに首をかしげた。


誕生日の本人が歌い、ろうそくの火を消す、など確かに変ではあるが…。


今年の自分の誕生日には、使用人たち総出で歌ってくれた。


他にも人がいて、みんなで歌うならば構わないが、さしで歌うのは少々抵抗を感じた。


だが、二人しかいない室内で、誕生日を祝おうとしているのだから、歌わないわけにはいくまい。

だが、私はこういう戯れが大変苦手なのだ。



「早く、早く、ろうそく溶けてケーキに落ちちゃうよ!!」


未礼は手拍子しながら、私の逡巡を見透かしたような、いたずらっぽい顔で私をせかした。


「…歌おう」

たかが歌だ。

私は意を決して、咳払いをし、未礼の手拍子にあわせて、誕生日の歌を歌った。

「♪♪ハッピバースデイトゥーユー♪♪」

電気が暗くてよかった。
気恥ずかしく、頬が熱い。


歌いだすと、未礼も私にあわせて大きな声で歌い出した。


未礼が共に歌ってくれたため、気恥ずかしさは軽減され、最後まで歌ってやることができた。
軽く額の冷や汗をぬぐった。


歌が終わると、未礼は勢いよくろうそくの火を吹き消した。


「おめでとう、未礼」


「ありがとう、啓志郎くん!!」



年が、一つ離れてしまったな、と思った。

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