我妻教育
未礼と共に生活をはじめてから、3ヶ月目の半ばになろうとしていた。


学校のあと、稽古を終え、居間に入る。


大学進学(松葉学院大学)が決まっている未礼は、コタツで編み物に没頭していた。


濃い青い毛糸だ。


テーブルの上には編み物の本を広げ、しかめっつらで、2本の棒を持つ手はぎこちなく、まだ5段ほどしか編めていない。


「編み物ができるのか」とはとても聞けない有様だ。


「…編み物でも始めたのか?」


私が編み物をのぞき見て聞くと、未礼は手元から目を離さずに答えた。

「そう☆冬だからね♪」


本の内容から、どうやらマフラーのようだ。


ときおり、「…うーん」と、うなりながら、ゆっくりとした手つきで編んでゆく。



コタツの上に置かれた小さなクリスマスツリーがチカチカと点滅している。








「啓志郎さま、こちらに並んでおります商品がクリスマス限定でして、大変ご好評いただいております」

ガラスケースの中に、ずらりとアクセサリーが並んでいる。


後日。
学校帰りに、まずは銀行へ寄った。
資金を確認するためだ。

記帳した通帳を確認すると、父からの送金があった。


『クリスマスしっかりキめろよ★(^0^)/プレゼントも決めたか?(^_-)』
先日、父からきていたメールだ。

つまり、この金でプレゼントを買え、ということだろう。



「こちらが、当店限定デザインのバッグでございます」


我が家が、ひいきにしている老舗デパートの支配人が、クリスマス前でにぎわう店内を案内してくれている。



先月末の、未礼の誕生日(を忘れていた失態)から、ずっと考えていたのだ。

プレゼントは、どうするのか。


しかし、散々悩み調べたすえ、開き直るつもりはないが、小学生の私に、年頃の女性が好む品がわかるはずもない。


父にアドバイスを求めたら、
『うーん(゚-゚)最近の若い子は何が欲しいんだろうな??
…無難にブランドのカバンとかアクセサリーとかかな??/(~_~;)』
と、なんとも頼りない返信。


だいたい未礼は、お嬢様のくせに高価なものは持っていないのだ。


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