我妻教育
雑誌の付録についてくるポーチやカバンを愛用している。
装飾品にしても母親の形見のネックレスしかつけない。


未礼が喜びそうなものなど見当もつかない。


ゆえに、直接本人に聞いたのだ。



欲しいものは、という問いに、
未礼は、とくに欲しいものはないなぁ…と頭をかいた。


「何もないことはないだろう」


「…う〜ん。とくに今足りないものもないしなぁ…。
あ、靴下ヘタってきてる。薄くなってる、ほら」

そう言い、自分のかかとを私に見せた。


「…他にも、何かあるだろう?
例えば、どこどこのブランドの何かだとか…」

なおも食い下がってみたが、未礼は困ったように腕をくみ、首をひねる。


「ブランドものは、高い分、長く使えるからいいとは思うけど、あたしにはまだ早いと思うんだ」

「早い?」


「うん。小学生のときね、お母さんが持ってたブランドもののバッグがすごくステキだったの。
ねだって同じの買ってもらったんだけど、バッグ持って鏡にうつった自分の姿が、何か違ったんだよね。
あたしがまだすごく子どもで、ブランドの価値に釣り合わなかったからだと思う。
バッグがすごく安っぽく見えて、なんかガッカリだったんだよね。
似合う大人になるまでつかうのやめようって。
せっかく買ってもらったのに、結局つかわないまま、しまってあるの」



そうは言っても、垣津端家のお嬢様に、つまらないものなど贈れまい。


デパートまで出向いたはいいが、周囲の他の客たちのはしゃいだ空気に、すっかり人酔いし居心地が悪くなった。


デパートの支配人がすすめるプレゼントも貴金属やブランドのバッグばかりである。

(一応ソックス売場に案内を頼むと怪訝な顔をされた。)


やはりプレゼントといえば、多少は値の張るアクセサリーやバッグが主流なのだろう。


支配人に、もう少し考えると告げ、デパートから出た。




デパートの前には、とても大きなツリーがある。

このデパートの名物でもあり、観光客が訪れるほど有名なツリーだ。


私は、多くの人々と同じように巨大なツリーを見上げた。





未礼の眉間が考えこむと、胸に影が落ちる。



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