我妻教育
なんとか笑みを戻してやらねばと気が急いてしかたなくなる。


弾んだ声を聞くと、私の心も明るむのだ。



プレゼントをあげ、喜ばせようとしているのに困らせている。
本末転倒もいいところだ。


しかし、未礼の“遠慮”も感じないでもない。

私がまだ親に庇護されている子どもだからだ。

例え欲しいものがあったとしても、ねだれるわけもないのだろう。
(せいぜい靴下程度か…)


わかっていた。

わかっていたとて、どうすることもできない。



私は松葉グループの代表になる。

気概はある。

だが、まだ途方もなく若すぎるのだ。


その最たるものが、父からの仕送り。

わざわざ振り込んでくれずとも、私にも貯金はある。
プレゼントくらい買える。

しかし、貯めた金も、しょせんは私が稼いだわけではないのだが。

記帳した通帳を前に、果てしない無力感で心が空っぽになった。


私をまとう空気か、重力か。
重くのしかかり、息が止まりそうだ。


どうして私はまだ子どもなのだろう。

自分の力では、…父の言葉をかりるなら、クリスマスをばっちりキめてやることもできない。

私の婚約者であるのに。



幸せの象徴でもある巨大ツリーの周囲の雑踏の中で立ち尽くしたまま、考えても仕方のないことを考えて、私は一体何をしているのだ。




「啓志郎じゃないか」


背後から紙袋のようなもので尻を叩かれて我にかえった。


振り返ると、大きな紙袋を三つもぶら下げた優留が立っていた。


「…その荷物…孤児院のクリスマス会か」


「そう。毎年恒例の。ガキども相手にサンタやるんだ」

優留は、ニッとして、紙袋を私の前に突き出して見せた。
色とりどりに包まれたプレゼントがつまっている。


優留は、自宅近くの教会で行われるクリスマス会に毎年ボランティアでプレゼントを配っている。
本格的なサンタクロースの衣装を着て。
口は悪いが実に情の厚い女だ。


「25日の昼間なんだが、どうだ啓志郎、お前トナカイやらないか?
…あ、そうか。クリスマスは嬢ちゃんとか。
プレゼントでも選びに来てたんだろ?」



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