我妻教育
―――気づいていたのか。
私の決心に。
…そんな気もしていた。
ここしばらくの私たちの空気は、何かを察していた…ような気がしていた。
普段通りの生活だったが、それでも何か違っていた。
未礼は、私が言わんとしていることが、とうにわかっていたのだ。
マフラーを編み始める前から。
瞳を伏し、未礼はためらいがちに苦笑いし、ゆっくりとした口調で話しはじめた。
「あたし、松園寺家にお嫁に行けるなんて、正直ラッキーだって思った。
これから一生、日本一楽して生きていける…って。
でも、そんな自分が心底嫌になったの。
啓志郎くんに会うまではね、松園寺家のご子息たちは、恵まれた家に生まれて、将来は約束されてて、悠々と生きてるんだろうな…って思ってた。
…でも…」
未礼は、切り返すように顔を上げ、私の目を見た。
「でも違ってた。
啓志郎くんも、優留ちゃんも、もっともっと上を目指そうって一生懸命で…。
あたしは、いつも逃げてばっかりだったんだ。
居心地のいい場所を探して。
どうせ変わんないだろうって、考えることも、努力も何もしないで、嫌なことから逃げてばっかり。
気づいたんだ。
このままじゃいけないって。
このままじゃ、あたしは結局いつまでたっても、お母さんみたいにブランドの似合う大人になんてなれないし、とてもじゃないけど、松園寺家のお嫁さんなんてつとまるわけがないって。
このままじゃ、ダメなんだ…。
何ができるのか、何がしたいのかわかんないけど、もう逃げるのはやめよう、って。
これからのこと逃げずにちゃんと考えようと思うの、家に戻って」
私は呆気にとられたように、ただ聴き入っていた。
未礼の決意に大きな驚きはなかった。
“このままではいけない”
私と未礼は同じだったのだという思いが強かった。
「家に…」
私は返す言葉がまとまらないまま、独り言のようにつぶやいた。
未礼は無言で、しかし、しっかりとうなずき再び顔を上げた。
決心済み。
そんな表情だ。
私も顔をひきしめた。
「こちらからのクリスマスプレゼントだ」
私は、未礼に小さな小箱を渡した。
私の決心に。
…そんな気もしていた。
ここしばらくの私たちの空気は、何かを察していた…ような気がしていた。
普段通りの生活だったが、それでも何か違っていた。
未礼は、私が言わんとしていることが、とうにわかっていたのだ。
マフラーを編み始める前から。
瞳を伏し、未礼はためらいがちに苦笑いし、ゆっくりとした口調で話しはじめた。
「あたし、松園寺家にお嫁に行けるなんて、正直ラッキーだって思った。
これから一生、日本一楽して生きていける…って。
でも、そんな自分が心底嫌になったの。
啓志郎くんに会うまではね、松園寺家のご子息たちは、恵まれた家に生まれて、将来は約束されてて、悠々と生きてるんだろうな…って思ってた。
…でも…」
未礼は、切り返すように顔を上げ、私の目を見た。
「でも違ってた。
啓志郎くんも、優留ちゃんも、もっともっと上を目指そうって一生懸命で…。
あたしは、いつも逃げてばっかりだったんだ。
居心地のいい場所を探して。
どうせ変わんないだろうって、考えることも、努力も何もしないで、嫌なことから逃げてばっかり。
気づいたんだ。
このままじゃいけないって。
このままじゃ、あたしは結局いつまでたっても、お母さんみたいにブランドの似合う大人になんてなれないし、とてもじゃないけど、松園寺家のお嫁さんなんてつとまるわけがないって。
このままじゃ、ダメなんだ…。
何ができるのか、何がしたいのかわかんないけど、もう逃げるのはやめよう、って。
これからのこと逃げずにちゃんと考えようと思うの、家に戻って」
私は呆気にとられたように、ただ聴き入っていた。
未礼の決意に大きな驚きはなかった。
“このままではいけない”
私と未礼は同じだったのだという思いが強かった。
「家に…」
私は返す言葉がまとまらないまま、独り言のようにつぶやいた。
未礼は無言で、しかし、しっかりとうなずき再び顔を上げた。
決心済み。
そんな表情だ。
私も顔をひきしめた。
「こちらからのクリスマスプレゼントだ」
私は、未礼に小さな小箱を渡した。