我妻教育
エピローグ
「寒ッッ!!」
「顔が凍りますわ」
元旦の早朝。
まだ暗闇の中、私と琴湖とジャンの3人は、新年の挨拶も早々に、それぞれ自転車に乗り、共に海を目指していた。
初日の出を見に行くためだ。
未礼と離れ、1人になった私を気にかけてか、2人はいつもに増して私とともに過ごす時間を作ってくれている。
私は、2人の存在に、ずいぶん救われたものだ。
友というものは、ありがたい。
未礼が我が家からいなくなってから、まだ一週間程度だというのに、“居間”と“未礼の部屋”は、以前と同じく“ただの客間”に戻った。
もう、使う用のない、その客間には入っていない。
ほんの3ヶ月前の生活に戻っただけだ。
それだけのことなのに、部屋だけでなく、心まで、ぽっかりとあいたようで…。
冬休みゆえ、いっそう稽古に力を入れ、それ以外の時間は、極力自室に閉じこもって勉学に励んだ。
忙しくしていないと、広い家が、途方もなく広く、無意識に喪失感をあおるのだ。
情けない。
私は男だ。
この喪失感を、「寂しい」などと女々しく言い換えたりするものか。
自分で決めたことだと奮い立たせ、正月をむかえた。
もう数時間後には、元日恒例、我が家に松園寺家の一族が集結する。
その場で、私は4月からNYに旅立つため、この家を空けることを報告する。
一週間前、未礼が実家に帰ったあと、すぐ父に連絡を取り伝えた。
婚約の解消と、後継者宣言の無期延期。
父は残念がったが、それで良い。
私には、まだ早い。
『なんとなく、そんな気がしてましたわ』
未礼との婚約を解消しNYに行くことを、琴湖とジャンに告げたときだ。
ため息をつきながら琴湖は、やっぱり、という顔をした。
『何が、とまでは分かりませんでしたが、花を生けているときの啓さまは、何かこう、決意のような気迫がありましたもの。
“これからもよろしく”っていうようなプレゼントを用意してるようには見えませんでしたから。
啓さまが、遠くに行くのは想定外でしたけど』
「顔が凍りますわ」
元旦の早朝。
まだ暗闇の中、私と琴湖とジャンの3人は、新年の挨拶も早々に、それぞれ自転車に乗り、共に海を目指していた。
初日の出を見に行くためだ。
未礼と離れ、1人になった私を気にかけてか、2人はいつもに増して私とともに過ごす時間を作ってくれている。
私は、2人の存在に、ずいぶん救われたものだ。
友というものは、ありがたい。
未礼が我が家からいなくなってから、まだ一週間程度だというのに、“居間”と“未礼の部屋”は、以前と同じく“ただの客間”に戻った。
もう、使う用のない、その客間には入っていない。
ほんの3ヶ月前の生活に戻っただけだ。
それだけのことなのに、部屋だけでなく、心まで、ぽっかりとあいたようで…。
冬休みゆえ、いっそう稽古に力を入れ、それ以外の時間は、極力自室に閉じこもって勉学に励んだ。
忙しくしていないと、広い家が、途方もなく広く、無意識に喪失感をあおるのだ。
情けない。
私は男だ。
この喪失感を、「寂しい」などと女々しく言い換えたりするものか。
自分で決めたことだと奮い立たせ、正月をむかえた。
もう数時間後には、元日恒例、我が家に松園寺家の一族が集結する。
その場で、私は4月からNYに旅立つため、この家を空けることを報告する。
一週間前、未礼が実家に帰ったあと、すぐ父に連絡を取り伝えた。
婚約の解消と、後継者宣言の無期延期。
父は残念がったが、それで良い。
私には、まだ早い。
『なんとなく、そんな気がしてましたわ』
未礼との婚約を解消しNYに行くことを、琴湖とジャンに告げたときだ。
ため息をつきながら琴湖は、やっぱり、という顔をした。
『何が、とまでは分かりませんでしたが、花を生けているときの啓さまは、何かこう、決意のような気迫がありましたもの。
“これからもよろしく”っていうようなプレゼントを用意してるようには見えませんでしたから。
啓さまが、遠くに行くのは想定外でしたけど』