我妻教育
靴下は、部屋の中央あたりに置かれたテーブルの上に落ちた。
テーブルの上は、化粧品やら飲食物のゴミやらがあふれかえり、ペットボトルが転がる。

ゴミを詰めたビニール袋もあちこちに置きっぱなしにされている。

勉強机も、勉強するスペースどころか座る場所もない。

タンスの引き出しは、何段か引き出しっぱなしにされ、洋服が積み上げられて、今にも倒れそうな不安定なバランスを保っている。
危険だ。

ベッドが見当たらない。
勇の指差すほうをに目を凝らすと、布団が見えた。
おそらくベッドだ。
しかし、その上にも洋服や雑誌が積み上がっていて、寝る場がない。
「隅に押しのけて、空いた場で寝ているんだ」

「このような部屋で生活ができるのか?」
純粋な疑問をぶつける。

「だと思うだろ?驚くことに、姉さま本人は、どこに何があるのか把握できているようなんだ。
気にならなければ、汚れていないのと同じ、が姉さまのポリシーらしい」


頭痛がした。
見合い時の印象はすべてガラガラと壊れて消え失せた。

今日たびたびかいま見えた未礼の、「?」と首を傾げてしまうようなところは、すべて未礼の本質だったのだ。
“よそゆき”では“本質”は計り知れないというわけか…。

品が無い。
行儀が悪い。
だらし無い。

これが、未礼の本質だというのなら……


「といっても、ほとんど家に帰ってこないからなぁ…」

あまりのことに考え込む私の耳に、更に追い打ちをかけるような勇の声が突き刺さった。

…帰ってこない?

「あまり家に居着かない人だから、姉さまは。
見合いのことで、じい様に帰ってくるように言われて、ここ二日は家にいたけど、また今夜は居なくなるんだろうな…」

ひと言も聞き逃さぬよう、勇の唇の動きを凝視した。
勇は、しっかりと私を見返した。
そして、信じ難い台詞を口にしたのだ。


「たいていは、さっきの男の家に居着いているのさ」
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