我妻教育
時刻はPM7時前。
外はもう、とうに暗くなっていた。
近頃、めっきり日が暮れるのが早い。

未礼宅から車で、我が家へ送ってもらう道すがらにて、今日ようやく二人で話をする機会を得た(運転手はいるが、話に割って入ってくることもないので)。


当たり前だが私の心中は、穏やかではなかった。

「このあと、さきほどの…桧周という男の家に行くと聞いたのだが…」

隣に並んで座る未礼の顔を直視できずに、わずかばかり視線を外し、ためらいつつも問うた。

未礼はあっさり認めた。
「うん。そうなの」

だが、私の顔に不穏の色が現れたのを感じとったのか、取りつくろうように急いで付け足した。
「でもね、二人とかじゃないんだよ?ユッキィの兄弟も一緒だし、他の友達も来てたりするし」

説明し終えると、反応をうかがうように私を見ている。

この先も聞かないわけにはいかない。
私も未礼に視線を向けた。

「あまり家に帰られてないようですが、それはなぜですか?」

「…え…っと、…なぜって…」
返事に困る質問だったようだ。
迷うような表情を見せた。

「ご家族は心配されるでしょう?」

「それは大丈夫だよ。
うち、放任主義だから、あまりあたしのことに関心ないと思うよ」
さらりと口にする。

…放任主義だと!?

親は、娘がほとんど自宅に戻らず、しかも男の家に居ついていることを許している。
度が過ぎてはいまいか?
これが教育方針というのか?

ただの教育放棄ではないか。


しかし……


「…もしや、家に居たくないのは、“ご家庭の事情”と関係があるのですか?」

この質問に、一瞬未礼は表情を失った。
だが、すぐ何ごともなかったごとく笑みを戻した。

「知ってるんだね?」
「…少しですが」


実は、未礼の家庭は多少“複雑”だった。

見合いの前日、我が祖父から、ざっと次のようなことを聞かされていたのだ。

未礼の実の父母は、すでに亡くなっており、見合い時に同席していた「父」は、「義理の父」であるということ。

勇は、実母と義父の間に産まれた子で、未礼とは半分血のつながった弟、ということになる。
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