我妻教育
見合いの時、未礼たち家族の関係は、とても、とは言えずとも普通に仲の良い家族に見えていた。

しかし、しょせん“よそゆき”では“本質”は計れない(先ほども学んだばかりである)。

家庭の事情が何らかの影響をおよぼし、結果、実家に居づらいのではないか?
と、私は考えたのだ。


未礼は乳の下で腕を組み、眉の辺りに力を入れ、首をひねる。

「う~ん…。どうだろう…?
別に自分のこと不幸だとは思ってないんだよ。ほんとは外に出るのも億劫なんだけど、
でも…、アテがあるなら家には居たくないって感じかな…」

何とも曖昧な返事に、当惑した。

「あたしの言ってる意味がわかんないって顔だね」
「…はい」

「…えーと、虐待だとか、家に居られないもっともらしい理由があればよかったんだけど…。ないんだよね。
…うん、別に普通だと思うよ?どこにでもあって、たいして珍しくもない一家庭。
…でも、あたしにはどうしても居心地が悪くって。
…あ、あたしがわがままなだけだと思うの。たぶん、あたしが弱いだけ。
上手く説明できなくてごめんね?自分の心の中の、感覚的なこと、上手く言葉に変換できなくて…」

そう言ってうつむいた。
長いまつ毛が影を落とした。

…歯切れが悪い。

考えながら言葉を選んでいたようだが、あやふやで何が言いたいのか理解不能だった。

曖昧にするということは、はっきりとは言いたくないということなのかもしれないが…。


結局、これ以上深く追求することはできなかった。

見てしまったからだ。

話しながら未礼の顔がくもっていったのを。
瞳にうつろう寂しげな光を。

眉をひそめながら浮かべた笑みは、どこか無理して作っていた(ように見えた)。

だから、ためらってしまったのだ。

それに追求する元気も私には残っていなかった。
テンションが下がっていた。

確かなことは、実家にいるよりも他人の家にいるほうが、未礼にとって心安らぐということだけ。

不良にしか見えない友人たちの中で上手くやっていけてるのかと案じたものだが、なんのことはない。

未礼自身も彼らと同じだったのだ。
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