我妻教育
帰宅すると夕食が出されたが、どうにも食欲がわかず、別れ際に未礼に「おすそ分け」と持たされた梨だけを食した。
みずみずしく甘い食べ頃の梨だった。
未礼は、もう一つ梨の入った袋を携えていた。
それを持って、桧周の家に行ったのだ。
風呂に入り、机に向かうも、勉強ははかどらない。
ふと、メールが入っていることに気がついた。
NYにいる父からだった。
あちらは今何時だったか…と考えつつ、メールを開いた。
『未礼チャンと仲良くやってるか?(ウインクしている絵文字入り)
カノンは元気か?』
父は普段、滅多なことがなければ、連絡などよこさない人である。
それなのに昨日の今日で、なんと気の早い…。
どれだけ楽しみにしているというのか。
ちなみに、カノンというのは、我が家で飼育している錦鯉の中で、父が一番気に入っている鯉の名前だ。
父のメールはいつも簡素で簡潔だ。
聞きたいこと、言いたいことだけ直入の人だ。
わざわざ取ってつけたような前置きをしてから本題に入られるよりは、好ましいと今までは思っていたのだが、今回ばかりは気が滅入る。
液晶を恨めしげに眺め、深く息を吐き出す。
そして、頭を冷やすために庭に出た。
暗闇に色を失った庭。
足もとを確認しながら歩を進め、池の手前で立ち止まり空を仰ぐ。
「雲が厚いな…」
空は一面灰色のぶ厚い雲におおわれていた。
今朝の清々しさは、どこへ消え失せたのだろう。
こずえを鳴らす夜風が前髪を揺らす。
私の額を撫でる、未礼の手を思い出した。
冷たい指先だった。
ふいに、華江(ハナエ)のことが頭をよぎった。
華江。本名は、ココア。
昔、我が兄が、拾ってきた雑種の犬(メス)だ。
兄が勝手に迷い犬を拾ってきて、勝手に華江と名前をつけ、勝手に世話を放棄して、私に押しつけた犬。
姉たちは、どうせ犬を飼うならチワワかトイプードルがいいと、華江を飼うのを反対した。だが兄はそれを押し切って飼いはじめたというのに…。
兄はいつも私に押しつける。
犬の世話などしたことがなかった私は大いに困惑した。
ほうっておくわけにもいかず、四苦八苦で世話をした。
みずみずしく甘い食べ頃の梨だった。
未礼は、もう一つ梨の入った袋を携えていた。
それを持って、桧周の家に行ったのだ。
風呂に入り、机に向かうも、勉強ははかどらない。
ふと、メールが入っていることに気がついた。
NYにいる父からだった。
あちらは今何時だったか…と考えつつ、メールを開いた。
『未礼チャンと仲良くやってるか?(ウインクしている絵文字入り)
カノンは元気か?』
父は普段、滅多なことがなければ、連絡などよこさない人である。
それなのに昨日の今日で、なんと気の早い…。
どれだけ楽しみにしているというのか。
ちなみに、カノンというのは、我が家で飼育している錦鯉の中で、父が一番気に入っている鯉の名前だ。
父のメールはいつも簡素で簡潔だ。
聞きたいこと、言いたいことだけ直入の人だ。
わざわざ取ってつけたような前置きをしてから本題に入られるよりは、好ましいと今までは思っていたのだが、今回ばかりは気が滅入る。
液晶を恨めしげに眺め、深く息を吐き出す。
そして、頭を冷やすために庭に出た。
暗闇に色を失った庭。
足もとを確認しながら歩を進め、池の手前で立ち止まり空を仰ぐ。
「雲が厚いな…」
空は一面灰色のぶ厚い雲におおわれていた。
今朝の清々しさは、どこへ消え失せたのだろう。
こずえを鳴らす夜風が前髪を揺らす。
私の額を撫でる、未礼の手を思い出した。
冷たい指先だった。
ふいに、華江(ハナエ)のことが頭をよぎった。
華江。本名は、ココア。
昔、我が兄が、拾ってきた雑種の犬(メス)だ。
兄が勝手に迷い犬を拾ってきて、勝手に華江と名前をつけ、勝手に世話を放棄して、私に押しつけた犬。
姉たちは、どうせ犬を飼うならチワワかトイプードルがいいと、華江を飼うのを反対した。だが兄はそれを押し切って飼いはじめたというのに…。
兄はいつも私に押しつける。
犬の世話などしたことがなかった私は大いに困惑した。
ほうっておくわけにもいかず、四苦八苦で世話をした。