我妻教育
紹介?
未礼を琴湖に?

私は、琴湖の顔を見直した。
表情は、冗談ではなく、本気で言っているように見える。

「どうかされました?
紹介して下さいませんの?」

「いや…紹介するのは構わないが…」

「じゃあさっそく行きましょう」

「今からか?」

「ええ。高等部は、すぐ近くじゃありませんか。
私、早くお会いしてみたいわ。さあ」


琴湖は、私にとって、一番長い付き合いの友人だ。
いずれは、未礼を紹介するべき人間だ。

だがまだ今は、未礼を紹介できる段階ではない。


返事を渋る私にお構いなしに、琴湖は、いつものように品良く微笑み、私の腕をとり、急かす。


「なになに〜、何の話してんだい?ボクも仲間に入れておくれよ!!」

梅乃木ジャンだ。
背後から騒々しく乱入してきた。




不本意ながら、強引に、琴湖に押し出されるように高等部へ向かう。


「ハイスクールなんて、ボク初めてだよ!!ワォ!ドキドキするなァ」

「…あんたのことは誘ってないんだけど?」

「こんな楽しそうなこと、仲間外れにさせるものか!」


高等部の敷地内で言い合いをしながら、琴湖とジャンが私の前を歩いている。

黒髪をなびかせながら、美しい姿勢で歩く琴湖の横を、スキップするようにジャンが弾んでいる。


複雑な気持ちのまま私は、未礼がいるであろう校舎に目をやった。


未礼は、ちゃんとしていてくれるだろうか…。




「あれが婚約者のいらっしゃる校舎ですか」
琴湖が目前の建物を指差す。

「ああ」

私が返事をするのと、ほぼ同時に、指差されたその校舎の正面口から、一人の女が姿を現した。


下校中の生徒でにぎわいを見せるその昇降口から出てきた、ひときわ目立つ女生徒に、私たちの視線は同時に止まった。


その女生徒は、迷うことなく私たち三人を見つけると、にこりと微笑んだ。

未礼だ。


校則通りの紺のブレザーとスカート、ブラウスのボタンはすべてとじられ、エンジのリボンがつけられている。


微笑んだまま未礼は、私たちに近づく。

膝丈のスカートのプリーツは乱さない。
どこから見ても、完璧に清楚だった。
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