我妻教育
琴湖が息をのんだのがわかった。

だが、1番驚いていたのは、他でもない、この私だった。

誰だ、この女は。ほんとうに、未礼なのか?



「なんてステキなレィディなんだ!!」
ジャンが感嘆の声を上げた。

「彼女が啓志郎のプリンセスなんだネ!」

上気したジャンが私を肘でつく。

「…あ、ああ、紹介しよう」

私は小さく咳ばらいをしてから琴湖たちに未礼を、未礼に琴湖たちを紹介した。


「はじめまして。垣津端未礼です。
啓志郎さんにはお世話になっています」

品よく微笑む。
控えめながらも、圧倒的な華がある。
未礼も、やはりお嬢様なのだ。


やればできるではないか。



「はじめましてッ!
啓志郎くんの親友でありライバルでもある、梅乃木ジャンです!
お会いできて光栄ですッ」

「誰が親友だ」
私の反論に耳を貸さず、
満面の笑みでジャンは勢いよく未礼に手を差し出し握手を求めた。

「よろしくね」
未礼も笑顔でその手を受けとる。

一方、
紹介しろと急かしたわりに琴湖は、黙ったままじっと未礼を見ているだけだった。

ジャンと握手したあと、未礼は、琴湖にも手を伸ばした。


琴湖は、ためらうかのごとく、すぐには手を出さなかったが、思い直したように手を伸ばし、未礼の手に合わせた。

「竹小路琴湖です。よろしくお願いいたします」
口角を持ち上げ、お得意の笑顔で未礼を見上げた。





「急に、すまなかったな」

気をきかせてか、先に帰るという琴湖とジャンをその場で見送ったあと、未礼に、わびた。

「いいよぅ〜。
それよりうれしいな♪啓志郎くんのお友達を紹介してくれて。
ユッキィたちにも会ってくでしょ?」
いつもの子どもっぽい笑顔に戻った未礼が、校舎の窓を指差した。


未礼の指が差す、3階の窓からは、未礼の友人たち(桧周と九地梨)が身を乗り出して、こちらを見下ろしていた。
愉快なものでも見物しているかのように、彼らの顔は笑っていた。
こちらに向かって手をふっている。

見上げてしまった以上、私は、短く会釈した。

未礼も、彼らに向かって大きく手をふった。



私はまじまじと未礼の姿を眺めた。




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