我妻教育
琴湖は、私の手元に目線を落として答えた。

「何が…って、本ですわ。
啓さま、読まれるのお早い方ですのに、まだあまり読みすすめられていないようですから」

「忙しくてな。
なかなか読書に時間を割くことが出来ないのだ」

「…そうですか。
ああ、それから、ご婚約者の方。
たいそうお奇麗な方でしたわね。
昨日は急でご迷惑ではありませんでしたか?」

「いや、大丈夫だ。
そういえば、貸す約束をしていたな。
なんなら先に貸そう」

私は本をとじ、琴湖の前に差し出した。
それを琴湖はすぐに手で制した。

「いえ、啓さまのあとで結構ですわ」

言い切ると同時にくるりと向きを変え琴湖は立ち去った。



< 63 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop