我妻教育
「―…うん…そうか…。―うん」
未礼は口元に手をあて、何事か自分自身に確認するかのようにつぶやいたあと、
「あたしにも断る理由はないわ。
…今回のお話はあたしにとってもったいないくらい…、
とっても幸運だと思ってるの」
ゆっくりとした、でもしっかりとした口調で答え、キンモクセイに視線を戻し静かに笑みを浮かべた。
その横顔の微笑は、軽く風に押し流されてしまいそうな、目前の咲きかけでまだ頼りない黄色い小花の香りのように、どこかはかない印象があった。
「…―少しお話させていただいてもよろしいですか」
二人の間に流れた沈黙に割って入るように背後から声がして、振り向くと未礼の弟の勇(イサム)が立っていた。
つぶらな瞳があどけない勇はまだ10歳とは思えないほど礼儀正しく、利口そうに、私と話をしたがった。
「…じゃあ、あたし向こうでお父さんたちと話してくるね」
席をはずした未礼の姿が見えなくなると、勇は一変して私に挑戦的な視線を向けた。
「お前、姉さまと結婚するつもりか?」
言葉づかいや態度に遠慮は消えていた。
「そのつもりだが…それが?」
「姉さまがお前なんかの手に負えるはずがない」
「…それはどういう意味だ?」
挑発ともとれる勇の言葉に努めて冷静に聞き返したものの、
「姉さまがどんな女が知らずに結婚したら、後悔するぞ!絶対に!!
一度家に来てみればわかるさ」
勇は自分の言いたいことだけ言うと、あぜんとした私を一人残したまま、もと来た道を走り去っていった。
未礼が私の手に負えない?
後悔?
…姉を奪われる、嫉妬だろうか?
だがそれだけではないような含みも感じられ、勇のうしろ姿を目で追いながら考えた。
一体、どういう意味なのだろうと-…。
未礼は口元に手をあて、何事か自分自身に確認するかのようにつぶやいたあと、
「あたしにも断る理由はないわ。
…今回のお話はあたしにとってもったいないくらい…、
とっても幸運だと思ってるの」
ゆっくりとした、でもしっかりとした口調で答え、キンモクセイに視線を戻し静かに笑みを浮かべた。
その横顔の微笑は、軽く風に押し流されてしまいそうな、目前の咲きかけでまだ頼りない黄色い小花の香りのように、どこかはかない印象があった。
「…―少しお話させていただいてもよろしいですか」
二人の間に流れた沈黙に割って入るように背後から声がして、振り向くと未礼の弟の勇(イサム)が立っていた。
つぶらな瞳があどけない勇はまだ10歳とは思えないほど礼儀正しく、利口そうに、私と話をしたがった。
「…じゃあ、あたし向こうでお父さんたちと話してくるね」
席をはずした未礼の姿が見えなくなると、勇は一変して私に挑戦的な視線を向けた。
「お前、姉さまと結婚するつもりか?」
言葉づかいや態度に遠慮は消えていた。
「そのつもりだが…それが?」
「姉さまがお前なんかの手に負えるはずがない」
「…それはどういう意味だ?」
挑発ともとれる勇の言葉に努めて冷静に聞き返したものの、
「姉さまがどんな女が知らずに結婚したら、後悔するぞ!絶対に!!
一度家に来てみればわかるさ」
勇は自分の言いたいことだけ言うと、あぜんとした私を一人残したまま、もと来た道を走り去っていった。
未礼が私の手に負えない?
後悔?
…姉を奪われる、嫉妬だろうか?
だがそれだけではないような含みも感じられ、勇のうしろ姿を目で追いながら考えた。
一体、どういう意味なのだろうと-…。