我妻教育
ついでに言うと、

私は、兄失踪の混乱の中、
同じように突然のことに混乱し、ヒステリーをおこした兄のガールフレンドたちの対応に追われるという多大な迷惑をこうむった。





兄は昔から、キレイなお顔のお坊ちゃんね、と言われ続けていた。


元モデルで元ミス日本の称号を持つ母譲りの美形で、
現代の王子様として謳われほどである。



今やその面影はなく、
面差しと体躯に精悍さを備えて5年ぶりに、私の前に姿を現したのだ。





兄の、まっすぐ私を見る瞳はイキイキと輝いていた。


「ケーシロー!!!元気してたか!!!
会いたかったぞーー↑↑」


満面の笑みで、飛びこんでこいとも言わんかのごとく諸手を広げ、
私との再会を喜んでいるようだ。



表情筋が柔軟なのだろう、笑うときは全開で笑い、豪快なエクボができる。



「……あっれー?!スルー?!
せーっかく久しぶりに会ったっていうのにさ〜!
ってケーシロー、何か怒ってる??」


私の冷静な視線に対し、
兄は、小首をかしげて、しょんぼりしつつもどこか陽気に見える。



「…いいえ。
それより、旅を終えて、もうこちらにお戻りですか?」


「いンや、こっちに長居するつもりはないんだ。
またすぐ向こうに戻るよ」



…戻る?



「一時帰国というわけですか。
何しに、帰ってこられたのですか?」


「…ちょっとな、ヤボ用。
でもケーシローおっきくなったなぁ!!
何年ぶりだっけ?今いくつになった?」


「12になりましたが」


「…ケーシロー、どうした?
カッタイしゃべり方して…
…昔はもっと…」


「昔の話は結構です。
それよりもどうして未礼と一緒にいたのかをお教え願えますか?」



他人行儀な私の対応に、
さすがの兄も、どうしたものかと思案しているかのような、まばたきを数回くり返した。



周囲の友人たちは、みな自然と固唾をのんで、
私たち兄弟の相容れない様子を見つめていた。






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