我妻教育
私が、未礼を咎めたことなど、なかったかのようだ。


なあなあのまま、いつも通りの2人の生活に戻っている。



うしろめたくもあったが、私は安堵していた。

今回の一件は落着したと…。




左手のケガも、多少不便ではあるものの、利き手は無事であるから日常生活に大きな支障はあまりない。





朝の準備を終え、いよいよ登校という時間になって、
私は、未礼を見てある違和感をおぼえた。



その違和感の原因はすぐに判明した。



「未礼、ネックレスはしないのか?」




未礼がいつもつけている、馬蹄形のゴールドのネックレスをつけていなかったのだ。




風呂に入る前に外し、そのまま洗面所に置かれたネックレスを朝洗顔するときにつける、というのが、未礼の毎日の日課なのだ。




「あー、」

今思い出したように返事をした。

ダークパープルのニットをたくしあげ、スカートのポケットに手を突っこんだ。



瞬間、目に見えて青ざめた。


目を見開いたまま、表情が硬直した。



「…どうした?」



私の問いには答えず、ポケットの中を必死に探っている。


「…ない」


「何が…?」



か細い泣きそうな声で言った。

「ネックレス…」


未礼の大きな瞳が潤む。



「どういうことだ?!」


「…ここに、入れておいたの。
昨日…じゃないや、二日前の夜…」

声が震えていた。


「ネックレスをなくしたのか?



未礼は、うなずいた。



「金具が…ネックレスをとめるとこがゆるくなってて…。古いから…。
コンビニでね、外れて落ちちゃって…。
近くにいたお客さんが気づいてくれて、拾ってポケットに入れておいたの。
あとで修理に出せばいいやって思って…」



「それがなくなったというのか?」


「うん…」

うつむき唇をかみしめた。
考えこみながら、つぶやく。


「多分、ケータイ何度か出し入れしたから、どこかで落としちゃったのかも…」



「すぐに探させよう!」


「待って!」




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