夢の国のアリス
あ、そうだ
と、娘はなんのお話かを思い出したようで
わたしの方を見て目を輝かせた。
「あのね、“ふしぎのくに”のお話ってわかる?」
娘の他愛のない笑顔に
わたしが返したのは、大人だけが使う
上っ面だけの微笑だった。
「…知らないわ。知らないけれど…お友達からその“お話”をもう聞いちゃダメよ。」
わたしは言い聞かせるように、
いや、娘に言い聞かせるためにそう囁いた。
もう、
大事なものを失うのは嫌だから。
わたしは、こんな日が来るのが怖かった
娘の口から、その話を聞く時が。