夢の国のアリス
「もう…やだ。」
わたしは慌てて頬を手で隠す
わたしの大切な人は、ディックは
空いた両腕で、わたしを軽く抱きしめた。
「ディック?」
「また、月を見ていたんだろう…?」
まだ、寝起きで頭がぼーっとしたわたしに
責める意味はなく、ディックは優しく問う。
わたしは、それでやっと頭がはっきりとしてきて
ディックの背中に軽く腕を回した。
わたしとディックの背の差は、
丁度、もう手を繋ぐこともできなくなったあの頃の
ウォルナットとわたしと同じ。
「……ごめんなさい。わたし、あなたのこともミシェルのことも…」
わたしの胸は
あの“お別れ”の時の茨が突き刺さったように
痛んでいた。