夢の国のアリス
ウォルナットを失ってからのわたしは、
まるで抜け殻のようだった。
心だけが、あの瞬間から動かないまま
わたしは十年以上の時を過ごした
他の誰も、想わないまま。
「…ねぇ、来週の結婚記念日にはさ…ウォルナットの所へ行かないか?」
「…そんなの、ダメよ…。」
そんなわたしを、
七年前、お嫁さんにほしいとディックは言った。
ウォルナットを忘れられない、
自分以外の誰かを想い続ける、
自分がとても寂しい道へと、わたしを連れ出してくれた。
今だって、これから先もわたしは変わらないのに
あんなことを言ってくれる。
「…“好きよ”、ディック…。」
そんな優しい人を、
優しい人“だけ”をわたしは愛せないでいる。