夢の国のアリス


「っ…いや、いやよ…わたしは“不思議の国”の“アリス”じゃないっ!」



わたしは叫んだ

怖い、わかっているから


あの穴に、墜とされてしまうことが。





「…さぁ、その前に儀式といこうかなぁ…」


白兎は、くるりとこちらを向いた

それは、最初に出会った時とはまったく違う



恐ろしい獣の姿に見えた。



「ぎ、儀式…?」

「“アリス”を“お人形”にするんだ…どこにも逃げない、静かな静かな…ね。」



声が震える

うまく、喉が動かない

白兎の答えに、心も体も凍りつくような戦慄を覚えた。



逃げない、“お人形”って……




白兎が、兎の口から牙を覗かせた―。

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