ぴーす
「……中に、入ったら?」


昨日と同じような態度で中野に尋ねる。
今は教室に誰もいないけど、さっきまで数人がいたおかげもあって、こんな窓がガンガンに開いてる廊下よりはあったかい。



「やだ」


中野は隣に置いてある予備の机の上に同じ体操座りで座ると、小さく首を横に振った。

あたしの足元にまだある、取り残された中野の青っぽいカバンは、こじんまりと小さな影をつくる。


「……なんで?」


変な空気だ。
長い廊下にはあたし達しかいなくて、世界に2人しかいないような、取り残された感じがする。
会話が途切れないようにするけど、中野のつくる沈黙が続く。

中野のはゆっくりと、教室の開いた窓から黒板に目をやった。



「……カバン、片付けたら……体育館行かなきゃなんないから」


まだ眠気が残っているような声で、すぐに上を向いて答えられる。

あたしはちゃんと式の準備しようとしてるのに……!

中野の面倒くさがりな言葉に少し腹を立てる。
中野を睨みつけようとすると、色鮮やかな青いマフラーに目がいった。


そしてあることに気づく。



中野のマフラーの黒いラベルには、白糸であたしの好きなピースマークが縫ってあった。










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