ぴーす
「宿題持った?」
「持った持った!」
「クラス覚えてる?」
「覚えてる覚えてる!」
耳に入ってくるお母さんの声。
スライド式の玄関のドア。
正面から風が吹いて、桜色の木々を揺らす。
「早く乗って! 遅れちゃうわっ」
「お母さんが寝坊したからでしょー」
助手席のドアをバタンと閉める。
長く伸びて、肩を越した髪がなびく。
「ちょっとどこ行くの!?」
「後ろに乗るだけだよっ」
車の助手席に乗るのを拒否して、後ろのドアを開ける。
青色の鞄を奥に投げて、助手席の後ろに座った。
今から向かうのは、なんか懐かしい場所。
でも学生なら当たり前の場所。
街をピンク色に染める、春の季節。
あたしは3月下旬に足が完治して、無事退院することになった。
予定通り、2年生になって初の始業式に出席するはずだったのに、風邪をこじらせてしまった。
だから今日、皆より4日遅れで、2年生になった。