ぴーす
「……追いかけなくていいの?」
あたしが中野に聞いたときも、犬は真っ直ぐと走っている。
中野はフルフルと首を横に振った。
マフラーに自分の顔を埋め始める。
「……どうして?」
あたしがそう聞くと、マフラーを下に引っ張り、いったん隠した顔を出した。
風が吹くたびと、中野は不満げな表情を浮かべる。
「走れば……追いつくから」
中野はあたしを真っ直ぐに見る。
中野の瞳は不思議だ。
一瞬も揺らぐことなく相手を見つめられる。
迷いも不安もない。
小犬はどんどんと離れていく。
あたしはこんなに離れてても追いつけるのか、不安だ。
「こっちが見失わないで追いかけてれば、いつかは追いつくから」
中野の言葉は、あたしの胸の中まで届いた。