僕たちは回り続ける
用を足して部屋に戻ろうとしたとき、先ほどと同じ歌声が聞こえた。
「あの小屋……」
吸い寄せせられるように梓はその小屋に向かっていた。
戸の隙間から長い黒髪を一つに結った鬼の面をした人物が見えた。洋服は着物で
しっかり着こなし、部屋の中からは香の匂いがした。
整った室内は純和風。しかし、人物には鎖が付けられていた。
まるでペットのように、足を鎖で縛り、近くにはおにぎりが置かれていた。
「……僕に何か用?」
三味線を止めて人物は言った。いや、この場合彼と呼ぼう。彼は声から察するにまだ青年と少年の境目ぐらいだろうか。甘い声は駿の声と対比になりそうだった。
「いえ、綺麗な歌声が聞こえたから……その」
「綺麗?そう言ってくれると嬉しいな」
彼はふっと吐息をこぼす。梓は思わずドキリとする。
「どうして、こんなところに閉じ込められて……」
戸以外に窓はなく、その戸は自由に開けられはするものの、彼の手には届かない。彼の横にあるのは三味線と、おにぎりとお茶。歌うことだけが彼に与えられた自由のように見えた。