僕たちは回り続ける
痛みを知ることはできなくても自分だからこそできる支えがある。梓なりに精いっぱいの対処だった。表向きだけの優しさではなく、己の思うがままの行動だった。

それが義則にとってどれだけ温かいものだったか彼女は知らないが、義則にしてみれば初めて触れた温かい心だった。

母は常に申し訳なさそうにうつむいてばかりで、まるで自分を生んだことを後悔しているんじゃないかと勘ぐってしまうほどだった。


「今。僕、初めて生まれてよかったと思った」


義則の体温が身にしみる。梓は義則を抱きしめることしかできなかった。
< 61 / 70 >

この作品をシェア

pagetop