妹は芸能人
CM撮影当日。
肌寒い河原で二条聖夜と川上唯が向き合っている。
「カメリハ1。はい、スタート」

「わたしの鼓動、感じて欲しいの」
唯が聖夜の手を自分の胸にあてる。
唯は胸のふくらみに向かって誘導したのだが、聖夜が手に力を入れ、触れたのは肩甲骨のあたり。
演技とはいえ女性の胸に触れるのは抵抗がある。

「はい、そのままで」
2人の側に監督が近づき、細かい位置を確認していく。
「顔はこの角度で。視線はここに。」
監督の話を聞き、聖夜の手に対する意識が薄くなった隙に唯は手を下にずらす。
「うわあっ」
聖夜は驚き、手を振りほどいて後ろへ飛び退いた。
「胸といったらここですよね、監督」
唯が胸の膨らみを指さしながら監督に確認する。

「いや、まあ、そうだが」
監督も人気タレントが、仕事とはいえ簡単に男性に胸を触らせるとは思っていない。
知り合いの監督が同じようなシチュエーションのCM撮影でタレントからクレームがつき、肩に近い部分に触れることとなり、視聴者から「あれでドキドキするのがわかるんかい」という苦情があったというのを聞いたことがある。

「おい、マネージャーに確認しろ」
監督がアシスタントディレクターに確認の指示をした。
河原の石を椅子代わりにし、タバコを吸っている大倉にアシスタントディレクターが駆け寄る。
「すいません。川上さんの胸は触ってもいいんでしょうか」
アシスタントディレクターが恥ずかしがりながら大倉に聞く。
「今日はそういう演技だろ。おい、唯、何か問題あるか?」
「全く問題ありません。」
唯は元気な声で返事をする。

「ということだ。よろしく。」

結局、胸に直接触れる ということになり、1日がかりで撮影は終了した。

1ヶ月後から放映されたCM。
人気タレントが直接、胸に触らせていることも話題となり、商品の売上ものび、唯の事務所には段ボール10個分のチョコレートが届いたそうである。




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