雪国の春
 「そうです。雪…、雪が解けちゃうと、困るんです」
 「困る?」
 「雪、解けちゃったら、春になっちゃったら…、先輩に会えなくなる」
 「え?」
 「私、先輩が卒業しちゃうの、嫌なんです!私、私…」
 「お前…」
 
 ああ、どうしよう?私の口を誰か止めて!先輩がびっくりしてるじゃない!
 泣きながら、なんてこと言おうとしてるのよ?

 「私、先輩が好きだから!」

 あぁ、言っちゃったよ…。もう、知らない。
 だめじゃない。せっかくの卒業までの短い間なのに、もう先輩と会えなくなっちゃうかもしれない。
 泣きながら歯をくいしばった。ぎゅっと目を閉じて手をきつく握り締めた。
 何を言われても、大丈夫なように。

 「お前、バカだなぁ」

 声とともにくしゃくしゃって、私の頭をやさしくなでる先輩の大きな、手。
 
 「先…輩?」

 先輩の言葉の意味がわかんない。バカって言われちゃったよ、私。

 「近所じゃん、家」
 「え?あ、そう、ですけど…」

 先輩の返事に、私は拍子抜けして、間抜けな顔になる。

 「いつでも会えんじゃん」
 「でも、やっぱり…先輩がいなくなっちゃうの、嫌です」

 でも、それでようやくわたしは先輩の目を見て話せるようになった。
 先輩はなんだか楽しそうな顔をしている。
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