雪国の春

手をつなごう

 「だから、雪、解けないで欲しい?」
 「はい。嫌です。このままずっと、冬がいい。春になって欲しくない…」
 「俺は困んだよね。雪、解けてもらわないと」
 「え?」
 「雪、解けたら誘おうと思ってた」
 「…?」
 「雪解けないとデート、しにくいだろ」
 「デー…ト?」
 「そ。雪解けて、歩きやすくなったら、一緒に出かけよう。…な?」

 照れくさそうに先輩は空を見上げた。
 澄み渡った綺麗な青が、そろそろ雪の季節も終わりなのだと告げているようだった。

 「先輩!」

 思わず私はそう叫んで、先輩に抱きついた。
 先輩のぬくもりが、心まで沁(し)みるようだった。

 「どこ、連れてってくれるんですか?」
 「なんだ、泣き止んだと思ったらもうそんな話か?」
 「だって、嬉しいんですよ!早く決めてたっくさん準備しないと!」
 「準備?」
 「とにかく!どこ行きますか?」
 「ん~遊園地とか行ってみてーけど、遠いしな」
 「確かにあそこは遠いですねぇ」
 「映画館は…あれも遠いな」
 「う~ん、確かに…でも、どこでもいいですよ、先輩となら!」
 「な、なに言ってんだよ」

 一面、銀世界の道を二人、並んで歩く。
 いつもは寒い道も、二人だと温かい。
 繋いだ手からお互いのぬくもりが伝わる。
 
 雪国で暮らすのって大変だけど、こうやって二人で暖まって、二人の距離がこんなに近くなるなら全然嫌じゃない。
 
 雪国の春は遅い。
 
 雪国に生まれ育って16年。
 
 いつも雪が解けるのを待ち遠しく思いながら、ちょっぴり寂しくも思ってた。
 
 先輩が卒業しちゃうのはちょぴり寂しいけど、生まれて初めて、こんなにも雪解けが待ち遠しい。
 
 
 卒業までのカウントダウン。
 

 雪の中、二人は寄り添い歩く。
                                
                              おわり
 
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