落下点《短編》
友人たちの間で、陣ちゃんとあたしは仲のよいカップルとして有名だった。
あたしの日常にはいつもどこかしらに陣ちゃんがいて、その割合はだんだん、大きくなっていったように思う。
「もう同棲してまえば?朋美、最近自分んちに全然おらへんやん」
「…へ?」
講義と講義の間のあきコマ、あたしは同じ学科の友人たちと向かい合って、久しぶりにカフェなんかで優雅にお茶を飲んでいた。
たまには違うメンバーでとる食事もいいものだなぁ、なんて思ったりして。
くるくると、華奢なスプーンでコーヒーをかき混ぜる友人の手をぼんやり見ていたから、すっかり意識が飛んでいたらしい。黒の中でくるくる回る、ミルクの白。
「やからぁ!一緒に住めばええのにって言うてん!!彼氏んちにずっといてるんやろ?」
コーヒーカップを口元に運んだ彼女は、黒い液体に触れるか触れないかでキュッと眉を真ん中に寄せた。どうやらまだ熱かったらしい。
あたしが答える間もなく、もう一人の友人がにんまりと笑って口を挟んだ。
「ほんと朋美んとこ、仲良しやんね〜っ!!」
「…そうかなあ?」
「だってホンマいっつも一緒におるやん。…飽きへん?」
実際その頃、あたしは陣ちゃんの家に入り浸りだったから。
自分の家の冷蔵庫はほとんど空っぽで、唯一の干からびたジャガイモだけがお留守番。
一緒に住んでいるといってもおかしくない状態だった。
その時ちょうどのタイミングで、テーブルの上に置いたあたしの携帯が鳴った。着信ランプは青、特別に設定した、陣ちゃんの色。
友人二人は、ほぼ同時にため息をつく。
「…彼氏なんて?」
「うん。迎えきてくれるって!今から飲み会やねん」
「あはは、コウキくんやっけ?ほんま朋美のこと好きなんやなぁ」
そう言って目の前の彼女は、もうひとまわりふたまわり、カップに浸したスプーンを回す。
完全に入り混じった白と黒は、カフェオレのほのかな甘さを物語っていた。
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