落下点《短編》

外に出ると、陣ちゃんが首を縮こませて待っていた。その様子がニワトリにそっくりで、思わず笑ってしまう。


「コケコッコーやね、陣ちゃん」

「…何やねんソレ」


陣ちゃんはポッケに突っ込んでいた両手の片っぽを出して、あたしに向かって差し出した。握りしめた指先と、指先の体温が混じる。


「朋美、今日手ぇ冷たない?」


あっという間にやって来た少し肌寒い季節は、これまたあっという間に陣ちゃんの首もとにあのチェックのマフラーを連れてきていた。


月日が立つのは早い。

たくさんの出来事は記憶やら写真やらに姿を変えて、思い出になる。


「そうかなぁ?てか、陣ちゃんのが冷たいやん」
「俺寒がりさんやもん」


繋いだ手と手のすきま、ひゅうっ、と冷たい風が駆け抜ける。

今年は冬が来るのが早そうだなと思った。いつも考えるけれど、季節の境目ってどうしたらハッキリわかるんだろう。


「フツー女の方が冷え症なんやで?」

「ん〜。じゃあきっと俺女性ホルモン多いねん。そんなヒゲ濃ぉないし」

「…うらやましい限りやね」


今日は久しぶりに、仲良し六人組の一人、忠司くんの家で飲もうということになっていた。

買い出しをするのはやっぱりあたしたち。もうなんだかそれが、当たり前みたいになってしまった。

陣ちゃんは、カルピスソーダのお酒がすきだ。だから買い出しのカゴには、いつもカルピスソーダを三本入れる。あたしもそれを、何口かもらう。

先ほど友人たちに同棲すればいいのにと言われた話をしたら、陣ちゃんは「それええなあ」と言って笑った。


その日はたしかに秋にしては寒かった。缶チューハイの冷たさが、指先にじんじんとしみる。



ふと、思った。



季節の境目を分けるのは、もしかしたら。


陣ちゃんのチェックのマフラーなのかもしれない。


ピーっと、真っ直ぐ夏と秋に線を引く。冬にはそれに、ニット帽もつく。


それならきっと早い。
あたしたちが迎える季節は。

秋も、冬も、他の人よりずうっと早いんだ。


ずうっと。


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