落下点《短編》

その日から、彼は"陣ちゃん"になった。"陣ちゃん"は、あたしの"彼氏"になった。


陣ちゃんはあたしの人生における、三人目の彼氏だった。いつも付き合いの続かないあたしだけれど、よく言うアレだ。"三"度目の正直。

その格言を、初めて信じてみたい、と思った。



付き合ってすぐ、陣ちゃんはあたしをよく一緒に食堂でつるんでいたメンバーに紹介してくれた。

「ほんまよかったなぁ〜!陣!!」

「こいついっつも、あの子かわええわぁってずーっとゆうとってんで!」

耳まで真っ赤にして友人の背中を叩く陣ちゃん。

唐揚げ定食ばかり頼む長身の彼の名が「朋也くん」ということも、その時に知った。


みんな気さくな楽しい人ばかりで、あたしたちはすぐに打ち解けた。

あたしも自分の友達を引き連れて、六人ほどで昼食を共にした。

今までは何枚にも重なる空気の壁を隔てて見ていた彼らと、同じテーブルで笑いあっているなんて。なんだか不思議で。

なんだかとても、嬉しかった。




「クリスマス、なんか欲しいもんある?」

マフラーに埋もれた陣ちゃんの口から立ち上る白い息。

それが空に消えてしまうまで、目で追った。


「…七面鳥、食べたい」

「お!ええなぁそれ!!」

「…ふはっ」

冗談で言ったのに陣ちゃんが予想外に食い尽くから、思わず吹き出した。あたしの口からも白い息。

頭の中で想像してみる。大皿にどーんと乗った七面鳥に、小さめホールのケーキ。真っ白の、雪みたいな。

…そもそも七面鳥って、どこで売ってるんだろう。


「ガブリといきますか」

「いきますか〜!!」


ふたりで過ごす初めてのクリスマス。びっくりするほど、雪が降った。机に並んだのは七面鳥じゃなくて、ケンタッキーのチキン。


温暖化とはかけ離れた、寒い冬。

あたしたちは必ず、どちらかの部屋で過ごした。



陣ちゃんは、とても寒がりなひとだった。



カイロみたいだと、いつもあたしを抱きしめて眠った。



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