落下点《短編》
陣ちゃんからのクリスマスプレゼントは最新式のデジカメだった。
「これでいっぱい思い出残そうや」
そう言って、陣ちゃんは照れたように笑って。
あたしたちは、写真をたくさん撮った。
やってきた春はカメラのデータを桜のピンクでびっしりと埋め、やがて陣ちゃんのマフラーを取り去った。
現れた首もとが眩しくて、まるで初めて会った人みたいで、隣で笑う陣ちゃんにふわふわした気持ちを抱いたことを覚えてる。
浮き上がった血管、それは男のひとのものだった。
「もう桜散ってもたな〜」
「なー。俺あんま5月好きちゃうねん」
「なんで?」
「なんかみどりみどりしとるやん。」
「みどりみどり?…ははっ、別にええやん」
「…いや、なんか苦手やねんて。なぁ、朋美」
「ん?」
「…夏はどこ行こか」
陣ちゃんの口から出る、これから先の話が好きだった。
海、プール、山、あとバーベキューもしたいね。マフラーを取り去り、長袖のシャツから半袖へと移り変わる彼を思い浮かべた。知らなかった陣ちゃんが、どんどん増えていく。
もっと知りたくて、季節が早く変わればいいと思った。早く知りすぎるのがもったいなくて、時間がゆっくり流れればいいのにとも思った。
そんな、みどりみどりの季節。
たくさんたくさん、シャッターを押した。
それでも足りなくて、全部全部収めてしまいたくて、だからあたしは忘れないように、陣ちゃんと行く先々の景色をしっかりと目に焼き付けた。
それがずうっとこれからも、キラキラしたものであると、信じながら。
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