記憶を持つ者
試練への序幕~魔界~
「白牙ッ!…何処にいるの!?」
叫んでも、声は闇に吸い込まれて行く。返事も、白牙の気配も、ない。
魔王の仕業かという推測はできても、今は自分の身を守る必要がありそうだ。
だけど、どうやって?
「それ以上来ないでよ…」
「愚カナ娘ダ。
ドウヤッテ来タカハ、知ラヌガ…生キテ帰レルト思ウカ?」
きっと、殺される。
それか、喰われてしまう。
―――どっちも同じ事だけど。
「オイ。俺ガ先ダ!」
「何ダト?フザケルナ!」
もめ始めた魔物達の姿は、暗い中でもくっきり見えるくらいに近かった。
…3匹いる。
…いや、何匹いても、逃げられなきゃ意味ないか…。
その場に釘付けになったまま、私は意外と冷静だった。