記憶を持つ者
「ユイ。お前は、各ワールドが出来る前の話を聞いたことがあるか?」

白牙はそう言い、私の縛を解いた。自分のいるワールドだけしか見えていなかった私には、そんな昔話は関係がないと思った。それよりも、もっと早急に知るべき問題が目の前にあった。

いや、目の前に“いた”。


「そんな事より、貴方は何なの?まさか、まだ夢…?」

「莫迦な事を言うな。昨日の昼に会っただろう?」


思い当たる人はいないでもないが、あれは女性だったはず。まさか有り得ないと思い、口をつぐんだのだが。


「でも、まぁ…あの時は女装してたからな。」


その一言で、昼に遭遇した側近の女性が白牙だった、と一応話は繋がった。ただ、納得できるか否かは別の問題で。


「じょ…女装とかの問題じゃなかったけど!?」

「堅いな。」

「はい?」

「頭が堅い。自分が住まうワールドを標準だと思うな。変化(へんげ)出来る事が普通の種族は多い。
“このワールド”もそうだ。」

―――このワールド…?

その言葉に、嫌な予感がした。今更だが、私がいるのは自分の部屋ではないと気付く。

ということは。


「あの…ここは、どこ?」

「魔族が住むワールド…お前のワールドでいう“魔界”だ。」
< 9 / 97 >

この作品をシェア

pagetop