天使のいいなり
病室に男の人が走ってきた。

白衣を着て、肩には聴診器をかけている。


「小松さんの意識が戻ったって?ご家族には連絡した?」

「はい。連絡も今してます。でも、少し混乱してるみたいで…。」



男の人が私の前に来た。
小柄で、男性にしては背が低い。
髪は短くツンツンして、不精ヒゲが生えている。
目は小さいけど、くりっとしていて。
30代くらいかな?


「小松さん、はじめまして。脳外科の若松といいます。」

「先生…?」

「覚えていますか?歩道橋から落ちたコト。」



覚えてる。
瑞己を探しに行ったトキでしょ?
手すりを掴み損ねちゃったんだよね…。


「その場にいた人が救急車を呼んで、ウチの病院に運ばれてきたんです。様々な検査をしたんですけど、どこにも異常は見つからなくて。自発呼吸もしっかりあって、ただ意識が戻らなかったんです。こんなコトは初めてで…。」



それから若松先生は確認のため、生年月日や簡単な質問・計算なんかを聞いてきた。
身体はなんともない。麻痺もないし、痛いトコロもない。


たった1つを除いて…。


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